長編

□永遠の誓い
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朝日が昇るころ、弁慶はようやく自宅の帰路につく。

必要最小限の物しか置いていない質素な部屋はまるで生活感が感じられなかった。

見渡せばあちこちに書物や薬草が散乱していて、とても人が住んでいるなんて思えない。


「……いい加減、片付けないといけませんね…」


…もし彼女が、望美さんが僕のものだったら…。

きっと、この部屋はこんなに散らかっていないのだろう。

『弁慶さん!散らかしすぎですよ!』…と、彼女に怒られていることだ…。

怒られたいと思ってしまうなんて、重症かもしれない。

そんなこと…夢のまた夢だけど…。

彼女に今すぐ会いたい、彼女を抱き締めたい、彼女を自分のものにしたい。

そんな醜いどうしようもない感情が溢れている。

そして、止めるすべさえない。

…でも、望美さんの気持ちを無視して僕が何かをできるわけない。

彼女はそんなこと望んでいない。

自分がこの気持ちを抑えてさえいれば、彼女は幸せになれる。

…これが僕の愛し方…僕が望美さんを愛するとはそういうこと。


「…望美さん…愛してます…」


弁慶は誰にも届かない想いを一人、空に向かって呟いた。



その後、弁慶はいつも通り薬師として診療所で診察をしたりと仕事をこなした。

そして、一段落したところで身体が不自由な患者に薬を届ける為に出掛けた。

…その間、弁慶の家に訪ねてきた者がいたとは知らずに…。




++++






夕暮れ、弁慶は今日の往診もすべて終わらして家に戻る途中だった。


「弁慶殿!!」


弁慶が声の方に振り返るとそこには年若い青年がいた。


「君は…?」


弁慶は見覚えのない青年に目を細める。


「私は京邸の使いです。お探ししました…」

「…?僕に何か…」

「診療所にもお訪ねしたのですが、いらっしゃらなくて…」

「あぁ…、往診に出ていましたからね。すみません、ご足労かけました」

「それは構いません!弁慶殿、急いで京邸に…!」

「京邸に…?」

「はい!早急に、邸に参られるようにと…景時様からの伝言です!」

「景時が?何かあったんですか?」

「…私の口からは申し上げられません…」

「…」


弁慶は何かただならぬ雰囲気を感じ、京邸に急いだ。











…なんだろう











何か…嫌な予感がする。









あたってほしくはなかったが、この嫌な予感はあたってしまった…。














弁慶は息も切れるぐらい急いで京邸にやってきた。

女房に通された部屋の先には景時がいた。

そこにいた景時に弁慶は息を呑んだ。

彼の様子が尋常ではなかったから、身体をガタガタと震わせ、流れるぐらいの涙を零していた。


「弁慶っ…!!」


弁慶の姿を見た景時は張り付くように弁慶にしがみついてきた。


「景時…、どう…したんですか?」


ろれつもちゃんと回っていない景時を落ち着くように促し、途切れる言葉を聞きとった。


「弁慶っ…九郎が…」

「九郎…?九郎がどうかしました?…落ち着いてください、景時」

「っ…」


景時は血が滲むぐらい強く口をかみ締める。


「景時…何があったんですか?」


景時は嗚咽を漏らしながら言った。


「っ…九郎が…死んだんだ!!」

「!?」









九郎が…










死んだ…?













弁慶は一瞬、景時が何を言っているのかわからなかった。



その現実はあまりにも残酷なものだった。



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