長編

□抱き締めて、囁いて
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※微裏注意!






















「んっ…っぁ…」


優しく慈しむようなキスが繰り返され、望美の瞳が自然に潤んでくる。

弁慶はキスを交わしながら密かに目を開き、望美の様子を確かめる。

望美の瞳が潤んではいるが、それは決して嫌だからではない。

お互いが、お互いを求め合っているのだから。


「…っ…んっ……ふぁ…」


繰り返されていた啄ばむようなキスが一度離されると、望美は荒い呼吸をした。

しかし、弁慶はそんな望美の様子に気にも留めず再び唇を重ねた。

さっきまでの優しいキスとは違って、貪るような激しいキス。

互いの舌が絡まり合い、室内には淫らな音が響き渡る。

望美はあまりの恥ずかしさに、弁慶を押し返そうとするが、強く抱き締められていてそれは適わない。

しばらくすると弁慶は唇を離し、次は首筋に噛み付くようにキスを落とした。


「っ…!弁慶さ…痛い…」

「すみません…でも、これぐらい我慢してください…」


今から身体中を愛してあげるんですから…っという弁慶の言葉に望美は顔を真っ赤に染めた。


「あっ…」


さっきまで望美の背にあったはずの弁慶の手が、いつの間にか胸元にあった。

少し肌蹴た服の上から、弁慶は優しく撫でるように手を這わせた。


「っ…!や…弁慶さ…ん…」


敏感に反応を返してくれる望美に弁慶に笑みが零れた。


「望美さん…とても…可愛いですよ…」

「弁慶さん…」


ごそっと弁慶が望美の服を脱がそうと、肌蹴た隙間から手を差し込んだ。

直に肌に触れられ、望美の身体は大きく反応した。

いつの間にか望美が身に纏っているものはキャミソールと下着だけになっていた。

弁慶はキャミソールを脱がそうと手を伸ばすと、望美の身体が大きく震えたことに気が付いた。


「…怖い、ですか?」


ベットの上で望美を見下ろしながら、なるべく優しく尋ねた。

すると、望美は軽く首を振った。


「違います…怖くない…」

「…無理、しないでいいんですよ?…不安な気持ちの君を抱きたくない…君を傷つけたくないんです」

「本当に違うんです…あの、私…」


望美は意を決したように、身体を起き上がらせた。

すると、ベットの上で弁慶と向かい合うように座るとキャミソールを捲り上げた。

驚いた弁慶はとっさに顔を逸らした。

ぱさり、とキャミソールがベットの下に落ちる音がした。


「弁慶さん…こっちを向いてください」

「いえ…しかし…」


今、望美が纏っているのは下着だけ。

そんな姿を見てしまっては、抑えられなくなってしまう。


「…私の全部をちゃんと知ってほしいんです、……この身体の傷も…」


…身体の…傷…?


弁慶はおそるおそる望美に向き直った。

目に映った光景に弁慶は息を呑んだ。

白いすべらかな肌…そして……胸元から腹にかけての大きな傷跡。


「…望美さん」

「弁慶さん…私の両親が事故で亡くなったって知ってますよね?」

「ええ…」


…望美さんの両親や過去のことは九郎から聞いて知っている。

けれど、そんなに詳しく知っていたわけじゃない。

付き合いだしてからも、望美さんに直接過去の話を聞くことはなかった。

望美さんは自分からはほとんど話そうとしなかったから、無理に聞かないでおこうと思っていたから…。


「…交通事故でした、あの日は雨で…対向車線から滑ってはみ出して来た車を避けようとして…」

「望美さん…」

「一瞬でした…運転していたお父さんは即死で…後ろに座っていた私はお母さんが抱きかかえるように庇ってくれお陰で…」

「望美さんっ!」


強く唇と噛み締めていた望美の口からは血が滲んでいた。


「それ以上、言わなくていいです!」

「私だけ…私だけが助かった…!…っ…でも…私は、私を一人置いていってしまった二人を恨んでしまいました…!」

「望美!!」


こういう時、なんて言葉をかけてやったらいいのだろう。

気休めの言葉なんて、そんなものじゃ彼女を慰めてやることはできない。


弁慶はただ望美を落ち着かせるように抱き締めてやった。

背中をぽん、ぽん、と小さい子をなだめる大人のように。

望美は弁慶の胸にすがりつくように泣いた。

止まるととがない涙を弁慶は受け止めてやった。


「…辛かったですね…ずっと、ずっと…」

「…っ…ひくっ…べんけ…さ…」


辛かっただろう。

両親を二人いっぺんに失って、自分だけ生き残って。

身体に今も消えない、こんな大きな傷まで負って。

どんなに、辛かっただろう…どんなに…。


「…望美さん」


弁慶は望美を抱き締める腕を解き肩に手を置き向き直ると、そっとキスを落とした。


「んっ…」


今までしてきたキスの中で一番優しいキスだった。

望美はそのあまりの温かさに、涙が止まらなくなりそうだった。

唇を名残惜しげに離すと、弁慶は望美の背に手を回し、パチンとホックを外した。

上半身何一つ身に纏わない格好にさせられ、望美はおもわず腕で胸を隠した。


「やっ…見ないで…」


弁慶はその言葉を遮るように望美の手首を掴んで、胸を露にさせた。

隠すものなく初めて見る望美の胸には一つの大きな傷跡があった。

かなり薄くなったように見える傷だが、十年以上前の傷だということは当時どれほど酷いものだったかを示していた。

弁慶はそっとその傷をなぞるように、胸に触れた。


「…やだ…見ないで、触らないで…こんな傷っ…」


泣きじゃくる望美を再びベットに押し倒し、見下ろす。

その間も、弁慶は何度も労わるように傷をなぞって、口付けた。


「…僕はこの傷すら、いとおしい…君のすべてを僕は受け止めます」

「…っ…弁慶さん…」

「君の辛い過去も、僕が幸せな未来に導いてあげます…」

「…絶対…?」

「はい…、愛してます…君が愛しい」


望美はポロポロ涙を流しながら、何度も強く頷いた。

言葉が出ないのであろう、私も愛していると、そう伝えるように頷いた。

その後、濃厚なキスを交わし合い、弁慶は望美を何一つ纏わない姿にした。

恥らう望美の他所に弁慶は自分の服を脱ぎ去り望美と同じ姿になると、自分の服をベットの下へと落とした。

引き締まった男の身体に、望美は少し恐怖を感じた。

それに気が付いた弁慶は何度も何度も愛の言葉を囁いて、抱き締めてやった。


「…愛してます…望美…」

「私も…愛してます…んっ…」


キスを交わすと、望美は身体を引き裂かれるような痛みに襲われた。


…あ…やっと、弁慶さんと一つになれたんだ…。

嬉しい…幸せ…。


望美の流す涙を苦痛のためと思った弁慶は申し訳ないような複雑な顔をしていた。

すみません…と弁慶が謝ると、望美は微笑み返した。

大丈夫…私、嬉しいです…と。

その言葉に、弁慶の理性も途切れ、望美は一晩中鳴かされることとなる。




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