長編

□抱き締めて、囁いて
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こんなに幸せなことがあるんだと、初めて知った。

大好きな人に、愛してる人に抱かれることがこんなに心地良いものだったなんて知らなかった。

弁慶さんはとても優しく、私を怖がらせないように抱いてくれた。

胸にある大きな傷も、身体中すべてを包み込んでくれた。

抱き締めて、愛の言葉を囁いてくれた。

好き、大好き、愛してる、これだけしか想いを伝える言葉がないと思うと悔しくなる。

私は、言葉で言い表せないぐらい弁慶さんのこと…想ってます。

一つになれた時、身体は辛かったけど心は嬉しくて涙が溢れた。

何度も何度も高みに上げられ、一晩中抱かれて、私の意識は朝方に途絶えてしまった。

でも、それでも弁慶さんは満足できなかったみたいで、目を覚ました私は再び弁慶さんに組み敷かれてしまった。


「…んっ…」


身体を何度も重ね熱いキスを繰り返され、望美はぐったりとベットに身体を預けていた。

しかし、弁慶のキスが止むことは無い。


「望美さん…」

「…弁慶さ……んんっ…」


全く力の入らない望美は弁慶のするがままキスを受け入れた。

頬を撫でていた弁慶の手が太股まで伸びてきて、望美はぴくっと反応した。


「ぁ…駄目…、弁慶さん…駄目…」

「もう一度だけ…」


これ以上は無理だと、望美は弱々しく首を振る。

だが、弁慶は太股を撫でる手を引かない。


「…弁慶さん…お願い…」


潤んだ瞳で愛しい望美に頼まれてしまっては、さすがの弁慶も引かないわけにいかなかった。


「わかりました…。けど…どうして?優しくしますよ」


望美はポッと頬を赤らめて、少し弁慶と視線を逸らした。


「そうじゃなくて…」

「そうじゃなくて?」

「…私まだ高校生だし…その…気をつけていても……赤ちゃん、できたら困るし…」


一瞬ぽかんとした弁慶はすぐに笑みを浮かべ、囁いた。

僕は君との子なら欲しいです…と。

望美は頬を染めたまま、馬鹿!馬鹿!と弁慶の胸を叩いた。

確かに、どんなに子供ができないように気をつけていても絶対確実ではない。

今の二人が結婚している夫婦なら問題ないが、恋人であって生徒と先生という関係なのだ。


「君が気にするなら、高校を卒業するまではなるべく控えますよ」

「…ごめんなさい」


抱くことを控えてくれると言ってはくれたが、大人の男である彼に触れ合うことを拒絶するなんて拷問のようだろう。

こういう時、彼の優しさには本当に感謝してしまう。


「…でもキスぐらい、いくらでもさせてくださいね…?」

「はい…私も…してほしいです」


望美の言葉が嬉しかったのか、弁慶はいつものクールな笑みとは違い、子供の様に笑った。

それにつられるように、望美も照れながら笑った。

そうして、しばらくベットの上で抱き締めあった。


「そういえば…望美さん。風邪、大丈夫ですか?」

「あ…忘れてました…うん、熱も下がったみたいです、大丈夫」


僕が激しくしたせいで汗をかいたお陰ですね、と真顔で言われて望美は思わず咳き込んでしまった。

本当に彼はとんでもないことを平気で言ってのける。

そんな所も含めて好きになったわけだから、何ともいえないが。


「…望美さん」

「はい?」

「お風呂…一緒に入りませんか?」


望美は恥ずかしがりながらも、しっかりと頷いた。

ベットから出るとお互い裸の身体が晒されたが、弁慶は全く隠す気も無く、気にしていないようだった。

そんな弁慶とは対照的に望美はベットの下に落ちている服を羽織ろうとした。

…が、「今から風呂に入るのに服を着てどうするんですか」と、弁慶に止められてしまった。

渋々服を羽織ることを諦め、望美は胸を腕で隠した。

しかしその腕は、今更隠す必要ありませんよと弁慶にあっさり解かれてしまった。

そして弁慶に風呂場に連れて行かれてしまった。

その風呂でも弁慶に愛を囁かれ、抱き締められ、ついには望美はのぼせてしまうのだった。








****








プルルル…


望美と弁慶が風呂に入っている間、望美の携帯の着信が部屋に鳴り響いた。

シャワーの音に着信音は掻き消されてしまい、二人には届かない。




「…出ないか」


ピッ


望美と暮らす自宅のリビングのソファに腰掛けている九郎は携帯を切った。

そして、目を伏せながら大きく溜息を吐いた。


「…アメリカ…か…」







この時、望美と弁慶にはこの先に別れが待っているなんて思いもしてなかった。

時は、夏が終わりに近づき、秋がやって来る…――。




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