長編

□destiny lover
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人々が楽しそうに交遊を交わしている。

皆、煌びやかなドレスやタキシードに身を包み着飾っている。

そんな社交界の片隅に望美と将臣がいた。


「…ね、将臣君…私浮いていないかな?」

「ん?なんでだ、別に変な格好はしていないだろ」

「だって…なんだか視線を感じるんだもん…」


どうして今、望美がこの場にいるかというと少し話を遡る。

ある日、偶然に同じ時間帯に望美に会いにやって来た弁慶と将臣は見えない火花を飛ばし合っていた。

そんな二人に挟まれた望美は板ばさみの様な状態で苦笑していた。

三人で話をしていても弁慶と将臣がお互いに別々の話題を望美に話しかけて、正直空気は良くない。

そんな時、弁慶が望美を社交界へ来ないかと誘ったのだ。

望美は社交界のような場は好きではないので断ろうと思ったのだが、返事をする前に将臣が口を挟んだ。

『望美が行くなら俺も行く』と。

先に話が進んでしまって、断りそびれた望美は渋々社交界へとやって来たのだ。


「…視線、な」


確かにさっきからすれ違う人々が望美を興味深そうに見てくる。

ギロリと将臣が睨み返すと、ぱっと視線を逸らしてくる。

弁慶はこの社交界でも有名な大貴族の跡取り。

その弁慶の妻にと望まれた望美は、当然のことながら有名人だ。

そのことを望美本人は自覚してはいないが…。


「…私、庭に出ていようかな…」

「はっ?それじゃあ社交界に来た意味ないだろ」


ここは貴族達の交遊を交わす場なのだから。


「…私にはこういう所は合わないもん…」

「でも、弁慶も来るんだろう?」


ご近所である将臣とは一緒に社交界へやって来た望美だが、弁慶とは後で落ち合うこととなっている。

会場の外に出ていては、弁慶が困るだろう。


「…将臣君、お願い…弁慶さんを私の代わりに待ってて…?」

「俺が!?」


あからさまに嫌そうに眉を潜める将臣に望美は「駄目?」と呟いた。

何で俺が弁慶を待たなきゃならないんだ!…と頭の中では思ったものの、望美がこの場にいることが苦痛だということはわかっている。

大きな溜息を零しながらも、将臣は「しょうがねーな」と頼みを聞いてやった。

望美は礼を述べると、そそくさと会場を後にした。

早くこの場から離れてしまいたかったのだ。

此処は息苦しい、胸が詰まりそうだと思った。

並べられた豪華な料理に、宝石を見に付け着飾った人々。

外には貧しくて路上を彷徨う人々もいるのに、同じ人なのに、こんなに違う。

それが望美にはわからない、自分は貴族の生活が合わないことを痛感していた。

出来ることなら、いつか、弱い立場の人々を助けるために働きたいとそう思った。








* * * *









「わぁ…綺麗…」


会場を出て、望美は一人庭先で夜空を見上げた。

ここは以前に弁慶と初めて出遭った所だ。

両親に連れて来られた望美は会場を抜け出して夜空を見上げていた、今日と同じように。

そして偶然、同じく会場を抜け出した弁慶に声をかけられた。

あの時は、こんな風になるなんて思っていなかった。

再会した時にいきなり求婚されて、今も一応友人として一緒に時間を過ごしている。


「…弁慶さん…」


自分でも気付かないうちに、その名を口にしていた。

ハッとなり、手で口元を覆い隠した。


「やだ…私…」


――今…何を言いかけた?

胸から想いが溢れ出しそうだった、この気持ちは…何?



違う、違うとわけもわからずに望美は首を振った。

頬に手を添えると熱くなっていることがわかった。

もし、現在の時間が昼だったらその顔が真っ赤だとすぐに周りからわかったことだろう。



「…貴方が…望美さん?」



ふとかけられた声に振り向けば、数人の女性がいた。

皆、スラッとしていて、整った容姿、長い綺麗な髪に煌びやかなドレスを靡かせていた。

睨みつけるような強い視線に、望美は思わずあとずさる。

望美の顔見知りの者はいない、わかったのは嫌悪を向けられているということ。


「…そうですけど、私に何か?」

「あら、弁慶様が大して地位もない貴族の娘を妻に望んだと聞いていたからどんなに美しい娘かと思っていたら…ただの子供じゃない」

「本当…弁慶様も何を考えていらっしゃるのかしら」


女性達の言葉に望美の頭にカッと血が上る。

たしかに自分は釣り合っていないだろうが、弁慶のことまで悪く言われるのは怒りが込み上げてきた。


「心配して損したわ、きっとお遊びね」

「…弁慶さんは遊びで人を弄んだりしません」

「何…?貴方こそ、弁慶様を知ったような口を利かないことね。貴方とは育ちも身分も違う方なのよ」

「弁慶さんは貴方達とは違うっ!人を身分なんかで判断したりしません!」


クスッっとまるで哀れむように女性達は望美を見下すように笑った。


「貴方…そんな考えじゃ、弁慶様の隣には立てないわね。弁慶様には相応しくない」


吐き捨てるように言葉を言い残して女性達は去って行った。

残された望美はなんだかやりきれない様な悔しさが滲んできた。

この気持ちは、悔しさ、悲しさ、切なさ…。


「わかってる……私が…弁慶さんに相応しくないってことぐらい…」


生きる世界が違うのだ。

身分も、地位も、考え方だって違う。

でも、認めざる得ないことがある。

惹かれているのだと…他の誰でもない弁慶に。



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