長編

□destiny lover
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いつか真っ白なウェディングドレスに身を包んで、鳴り響く鐘の下で結婚式を挙げる。





もちろん、その時は隣にあの人がいる。





そして二人、手を取り合って、歩いていく。





子供が生まれて、歳を重ねて、そんな風に当たり前の時間を穏やかに過ごして行きたい。





年老いても、周りから羨ましがられるぐらいにお互いを慈しめれば素敵だと思う。





そんな未来が、私の理想。





夢…。

















destiny lover


















此処はとある社交界の場。

社交界とは貴族や大地主といった身分が高い者達が集まり、交遊をする所である。

当然、身分の低い者は参加できない。

皆、煌びやかに着飾っていて、その光景に誰もが酔ってしまいそうだ。

この場では、知的で洗練された会話や振る舞いが求められる。

参加者達は難なくそれをこなしている。

しかし、一人浮かない顔をした少女が社交界の一角の隅に一人ポツンといた。

少し紫のかかった長い髪、翡翠色の瞳、そして整った容姿にすれ違う人々は目を奪われるほどだ。



「…帰りたい…」



その少女、望美は大きな溜息を零した。

望美は今日が社交界への初参加だった。

今までは、ずっと自分にはこういう場は似合わないからと拒んでいた。

しかし望美はもう十七歳、貴族の娘としてどこかに嫁いで行く年頃だ。

全くその気のない望美を心配した両親が、社交界へと半ば無理やり連れてきたのだ。

両親はというと、他の貴族達と楽しそうに交遊を交わしている。

しかし、望美はやはり自分には合っていないと感じて会場から抜け出した。

さすがに勝手に帰るわけにはいかないので、庭に出て噴水を眺めながら時間が過ぎるのを待っていた。


「…はぁ…やっぱり私にこんな格好なんて似合わないよ」


自分の格好を見て、肩ががくっと下がる。

こんな大人っぽい煌びやかなドレスは趣味でもなければ、こんな場でなければわざわざ着ることもない。

貴族の娘として、少し変わっているとは言われるが望美はもっと動きやすい服を好んだ。

それに見た目だけ着飾ったって、中身が悪ければ意味がないと思った。

今の世、貧しい人々がたくさんいる。

それなのに、自分はこんな風に何不自由なく生きていることが望美は疑問だった。

ただの貴族の偽善だと言われるかもしれないが、望美はこういう娘だった。

弱い立場の人々に心遣いを忘れずに、優しさに溢れていた。

だが、それは貴族として生きづらくしている原因でもあり、両親は頭を悩ませていた。

娘の幸せを願っているが、そんな望美が嫁いで上手くやっていけるのか心配だった。

そして、この社交界に連れて来てみたものの、予想通り望美は社交界に興味もなく馴染めていない。


「あ…流れ星…」


空を見上げると、輝く星々が夜空を照らしている。

社交界に来たことは失敗だったと思ったが、こんあ綺麗なものが見れたなら損はないなと思った。




「……こんな所で一人で夜空を眺めているのですか、お嬢さん」




後ろからふと掛けられた声に振り返る。


「…貴方は…?」


男性にしては少し中性的な穏やかな笑みを浮かべた、琥珀色の髪をした青年がいた。

格好や、その身の内から溢れてる気品が使用人などではなく貴族の者であるとわかった。


「…おや、僕を知りませんか?結構、社交界では顔が広いんですが…」

「あ、すみません!私…社交界に来たのが初めてで…」

「そうですか、どうりでこんな可愛らしいお嬢さんを初めてみたと思いました」


さらっと言われた一言に、望美は顔を真っ赤に染めた。

たとえ社交辞令だとしても、望美は男の人にこういうことを言われることが慣れていない。

今が灯りのない外にいて、夜だということに感謝した。


「あ、あの、貴方はどうしてここに…?」

「僕は…少し一人になりたくて。…社交界は華やかなものですが、所詮は地位の競い合いのようなもの…たまには息抜きしないと疲れてしまいますから」

「…そうですね」

「君はどうしてここに?」

「えっと…私は…その…こういう場は私には合わないから…落ち着かなくて。……ここはとても星が綺麗で…私は社交界より、こっちの方が好きです」


夜空を見上げながら微笑む望美に、青年は思わず見とれてしまった。

こんな人が、貴族の中にもいるんだと。


「…君は」


青年が何かを望美に言おうとした時…



「望美ー、どこなの、望美ー?」



望美を呼ぶ声が社交界の会場の方から聞こえてきた。


「あっ!母様の声だ!すみません、私行きますね」


背を向けて呼ぶ声の元へ行こうとした望美の腕を青年が掴んだ。

思わず掴んでしまった青年は、自分でも自分の行動に驚いた。

そして、それは望美も同様だった。


「えっ…と…?」


望美が困惑した顔をして、慌てて青年は腕を離した。


「す、すみません!」

「…いえ…それじゃあ…私行きますね…」

「あ!待ってください!!君の…名前を…教えてくれませんか?」


名前を教えてほしいと言われ、望美は月を指差した。

そして微笑みながら応えた。



「望美です」



そう言うと、望美は会場へと姿を消した。

一人庭に残された青年は、月を見上げながら呟いた。



「望美、さん…」



今宵は満月。


月は魔力を持つというが、それが二人を導いたのか否か。


きっと、すべては運命。



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