【DS】TEXT

□勝者or敗者?
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 寒くなって来た今日この頃……。

「コタツにミカンって最高だな」
「あったかぁ〜い……寝ちゃいそう」
「コタツで寝たら風邪を引くわ」
「分かってるけど眠くなっちゃいます……」

 蜜柑を入れられた小さな籠が真ん中に置かれたコタツで、アツロウ、ユズ、マリ、アヤノが向かい合って使っている。
 そんな平和を体現するかのようにほのぼのと温まっている4人から少し離れた場所で、何やら言い争っている人間がいた。



勝者or敗者?



「アタシのポーズが一番! だってヒーローだもん!」
「うーん……でも少し気迫が足りないと思うよ」
「気迫って点ならオレだろうヨ」
「いや、タダシのそれは、咆えているだけだ。もっと自然体で気迫を出さないとな」
「立ち姿に必要なのは主人公然とした雰囲気や勇ましい気迫ではありません、神聖さです」
「フ……つまりどれを取っても、俺が一番という事か」
「それだけはあり得ませんね」

 会話の内容はかなりおかしいが、アツロウたちには何について話しているのか分かった。
「オレたちは戦闘用ポーズがないからラッキーだな」
 戦闘でのグラフィックがないアツロウたちに、戦闘中のポーズの話は無縁だ。
「うん……あんな談義に交ざりたくないもんね」
「本当だねぇ、ああいうどうでもいい話に盛り上がれる人間はスゴイよ」
「……何でオマエがいるんだよ」
 喚んでもいない気に食わない悪魔が前触れもなく現れたことに、アツロウは思いっきり不快感を示す。
 眉を寄せて警戒するアツロウをロキはけらけらと笑う。
「アヤノくんの居るところに、ボクは居るんだよ」
「恵乃君、ストーカー被害は訴えても良いのよ?」
「マリ先生、それすごい正論」
 マリもロキに消えろと言わんばかりの視線を送っているが、ロキは軽く流している。
「ちょっと、アンタ……いるのは良いけど、何でアヤノのこと抱き締めてるの? コタツに入ったら良いじゃない!」
 誰もツッコもうとしなかった事に、苛々しながらツッコむユズ。
 ロキは抱き締める力を強くし、ユズにここぞとばかりに見せつける。
「アヤノくんの抱き心地を噛み締めてるんだよ。全く分かってないねぇ、キミ」
「変態の気持ちなんて分かりたくないわよ!」
 ユズは怒りに堪えるように、持っている蜜柑を握り潰しそうなほど手に力を込める。
 好きなアヤノの前ではあまり暴れたくないが、出来るなら暴れまくりを使いたい心情だ。
「……ロキ、寒くない?」
 抱き締められることに慣れているアヤノは、抱擁よりもロキの事を気遣う。
 心配されたのが嬉しかったのか、ロキはついつい図に乗り、首筋に顔を埋めた。周囲の怒りメーターが急激に上がって行く。
「どうせ温まるなら、コタツよりもベッドの中で温まりたいなぁ。もちろんキミと」
「…………?」
「はい、残念でしたー。アヤノに遠回しなお誘いは効かないぜ」
 ざま見ろと鼻で笑うアツロウに、ムッとした様子でロキは舌打ちをする。
「チッ……じゃあ強制―――がっ!」
 突然、ロキの頭部からガンッと痛い音が響いた。
「貴様が存在することは辛うじて許してやるが、黙っていろ」
「ナオヤくん……下駄を飛ばすなんて、どこぞの幽霊族みたいなコトしないでほしいんだけど」
 ロキは下駄を投げ返して怒るがナオヤも譲歩する気はない。あまり文句を言いすぎると、下駄アッタク以上の攻撃をされそうだ。
「静かになる気がないなら、さらに制裁を加えるが」
「横暴だねぇ……そうだ、アヤノくん、キミのお兄さんどうにかしてくれない?」
 ナオヤ用最終兵器、アヤノを使おうとするロキ。しかしアヤノはロキとナオヤを見比べて、一言。
「今のは、ロキの方が悪かったんだよね?」
 何故ナオヤが怒っているのか分からないが、怒り具合などからしてロキに非があると判断したアヤノはナオヤに味方する。
 ナオヤだけではなく、アツロウたちも負けたロキをせせら笑った。
「ナオヤさんに負けてやんの、ざまぁ」
「キミに『ざまぁ』って言われると殺したいくらい腹立つんだけど」
 仲裁役のアヤノがいるため両者暴れたりはしないが、今にも戦闘に入りそうな危ない空気になる。
 ナオヤはロキが変な事を言わなくなった事を見て、さっさと輪の中に戻って行く。ポーズ談義はナオヤにとって重要なものらしい。

「あの話はいつまで続くのかしら……」
 いつまでも終わりが見えそうにない談義を遠目から見て、マリは不安げに呟く。
「何を決めようとしてるのかも分からないっスからね……」
「それは当然、一番良いポーズを決めたいんじゃないのかい?」
 この際セクハラしていないなら良い、と投げ遣り状態でロキの行動を無視しはじめたアツロウ。マリはいつでも警察に電話できるよう携帯電話を持っており、ユズは未だ睨んでいる。
 そんなあからさまに歓迎されていないムードの中で発言できるロキの図太さは悪魔の中でも有数だろう。
「……みんな、自分が一番って、言う」
「だろうなぁ……特にナオヤさん」
「アマネも意外と自己主張激しそう……」
 アヤノの言葉にコタツ組は同調する。冗談ではなく、このままでは一生かかっても話が終わらない。
 さて、冷静な目で観察されているポーズ組はと言うと……。

「俺のポーズこそ最高だろう。空中浮遊だぞ? その上、長羽織ひらひらだ」
「御陵くんの従兄さんって、意外と子供っぽい……」
「これぞ恵乃が喜ぶポーズだ……!」
「え? 御陵くんが? ……真似、しようかな……」
「!? ケースケ! 変な道に走っちゃダメ!」
「男なら男らしく勇ましいポーズだろ。今から殴り込みに行く勢いを見せンだヨ」
「だけど、あまりワザとらしいポーズだと、かえって強がりだと思われそうだな」
「やはりここは神聖な立ち方です。神聖さを出すだけで、周囲への影響力は大きく変わります」
「お前のポーズは、レミエルにしろマインドにしろお前自身にしろ、ちっとも神聖性がないな」
「なっ……わ、私は翔門会の巫女として神聖なポーズを……!」
「え……? あの、片足立ちが神聖……?」
「ミドリちゃん、そこは聞き流してあげるところだよ」
「っ……あ、貴方たちのような似非ポーズに文句を言われる筋合いはありませんっ」
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