【DS】TEXT

□勝者or敗者?
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「……あれって、会話が成り立ってるのか成り立ってないのか、よく分かんねー……」
「似非も何も、みんな同じレベルのポーズな気がする……」
 話している人間と話題がカオスなせいで、内容もカオスだ。
 聞いているだけのアツロウとユズも小声だが思わずツッコんでしまう。
「みかん美味しい……ロキも、はい」
「ありがとう。でも……ミカンは食べ過ぎると、肌が黄色になるよ?」
 話を静かに聞きながら蜜柑を食べていたアヤノだったが、ロキの余計な一言で動きが止まる。
「キミご自慢の健康的な白い肌が真っ黄色に……」
「もう食べない、みかん食べないっ」
「ちょっと、アヤノをからかわないでよ!」
「アヤノに何吹きこんでるんだよ、オマエ」
「恵乃君、確かに黄色味が帯びることはあるけど、治るから大丈夫よ」
 蜜柑をパッと離したアヤノをマリが慰める。
 と、こんな感じでコタツ組が何だかんだ穏やか(?)に話している間も、ポーズ組は自分が一番だと主張している。
 しかし話している間に、主張する人間だけでは果てがないことに気付いて来た。

「……これでは埒が明かん。お前たちが駄ポーズを主張するからだ」
「一番の駄ポーズは貴方ではありませんか。神聖さから最も遠い……」
「駄ポーズも神聖さもどうでもイイからヨォ……とりあえずどれが一番か決めねぇか?」
「そうだな、……なら、どう決める?」
「多数決とかはどうかな?」
「う〜ん……ヒーローのポーズを多数決で……」
「手っ取り早く決めたいというなら……、恵乃に聞くのが一番だ」

「何で最終的にアヤノに回ってくるんだ……」
 話を振られたアヤノより、アツロウの方が嫌そうな顔をする。
「愛されてるねぇ、アヤノくん」
「愛されてるのとは別でしょ。……アヤノ、どうするの? 何か、こういうのってメンド臭いよね……」
 誰を選んでも不平を言われそうで、ユズが顔を顰める。
「うん?」
 アヤノはあまり話を聞いていなかったのか、期待を込められた目で見られていることに気付き、首を傾げる。
 マリが何を求められているのか、簡単に説明した。
「恵乃君は、誰のポーズが格好良いと思うの? 素直に教えて欲しいわ」
「ポーズ? ……み、」
「みんな格好いい、は無しだぞ」
 ナオヤに先手を打たれ、アヤノはしばらく悩みはじめた。
 何度かお茶を咽に通し、う〜ん、と唸る。全員がアヤノの判決を固唾を飲んで待った。
 やがて、うんと頷き、誰のポーズが一番良いか決めたと意思を示す。
「一番、いいポーズは―――」
 微笑を称え、送った言葉は、予想の範囲外のものだった。

「ロキのポーズ」

「………………は?」
 ポーズ組のみならず、アツロウたちまでもが呆けた。「は?」は全員の声が揃ったものだ。もちろん、選ばれたロキ自身も驚いている。
「空、飛んでる」
「それは、確かに空中浮遊だがっ……! そんな悪魔、五万と……!」
 ナオヤが納得いかない、とアヤノに詰め寄った。
「あと、コウモリ。格好いい」
「こ、蝙蝠……?」
「好き」
「!!!!!」
 もしもナオヤが石化状態だったのなら、今の一言で崩れ散って即死している所だっただろう。
 ナオヤはその場でまともに立っていられず、ふらふらになっている。それほどショックが大きすぎた。
「……。あんなポーズなら、御陵くんも気に入る……」
「け、ケースケ! さらに変な道に行こうとしてる! ダメ、ケースケまで変態になっちゃう!」
「で、でも……御陵くんが、変態が好きって言うなら……」
「ケースケ、ダメー!」
 変態の道に進みかけているケイスケを必死に食い止めるミドリ。
 カイドーとジンもぽかんとしていたが、状況を理解し、納得いかない、と不快さを露にする。
「納得できねぇなァ……タダシ」
「アァ……納得できねぇ」
 殺気を高めながら、準備運動を始めるカイドーとジン。
「神の子を誑かすとは……ロキ、何と邪悪な悪魔でしょう……」
 贔屓目でナオヤが選ばれる何億倍も、ロキが選ばれることの方が腹立たしい!
 ポーズ組全員の意思が合致する。
「……えっ? あの、何でセクハラも何もやってない時なのに、こんなに殺意を向けられてるの?」
 ピリピリとした殺意に、ロキもやっと事の重大さに気付く。
 殺意が行動に出ないうちに、逃げなければならない。逃げ遅れれば、大変なことになる。
「……今回ばっかは同情しとくぜ」
「気をつけてね。これに懲りたらもう来ないでよね」
「警察を頼る必要がなくなって、良かったわ。一応、救急車を呼ぶ選択はあるけど」
 同情されるも助けを期待できないロキは、攻撃される寸前に別の場所に移った。
 ポーズ組は殺意殺気を隠さずに、ロキの気配を頼りに追いかけて行った。気配を頼りに追える辺り、怒りや嫉妬で人間技を超えている。
 残されたのは、談義に交じらなかった4人だけ。

「……アヤノ、お前……」
「ん?」
「その気になれば、殺人教唆も余裕だな」
「アツロウくん、殺人教唆も犯罪よ」
「分かってるけど……アヤノの場合、教唆しても、実行した奴は物的証拠が見つかっても絶対に口を割らなさそう……」
「アヤノ、色んな人に好かれるから……。でも、そんな事、アヤノはしないよね? だから大丈夫。……うん、きっと、多分」
「はは……ミカン、食べるか」


 かくして、平和な4人に変な雰囲気を遺すだけ遺し、何とも下らないポーズ談義は、幕を閉じたのだった。

 ―――ポーズ談義の勝者が、他の敗者たちから逃げ切れたかは、定かではない。
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