【DS】TEXT

□過度なイタズラにご用心
1ページ/3ページ

過度なイタズラにご用心



「ナオヤさん、ヘルプ・ミー!!!」
 救援要請とばかりに叫ぶアツロウは、ドアをノックどころかデスバウンドで破壊してヒルズの一室に入った。
 アツロウが入った部屋には、ソファに悠々と座り何かの本を読んでいる(アツロウには本のタイトルすら理解不能だった)ナオヤがいた。ナオヤの自室として扱われている部屋なのだから、当然だが。
「……騒々しいぞ」
 見向きすらせずに、億劫な様子でアツロウを注意する。
 冷たいナオヤの対応を不快に思う事なく、アツロウは構わず助けを求めた。
「だから大変なんです!」
「『だから』の意味が分からん。理解不能な言葉は話すな」
 普段から理解不能な言葉を連呼していたナオヤに『理解不能な言葉』と言われるのは心外だが、混乱していてまともに説明できていないのは事実。
 アツロウは、言葉じゃ説明しきれないと判断し、ナオヤの腕を強引に引っ張って連れ出した。


***


「……何だ、これは」
「だから、大変なんです」

 現場に連れて行かれたナオヤは、目に入った光景に眉を顰めた。
「ふっ……ははっ、……くすぐったいよぉ……」
 床に横になり、身悶えているアヤノ。
 その姿を見たナオヤは、理不尽にもアツロウを睨む。アツロウはトホホ、と肩を窄めた。
「オレのこと睨まないで下さい……。えーとですよ、アヤノが急にくすぐったいって言い出したんです。最初は小さく笑ってるだけだったんですけど、どんどん度が増して……今じゃもう、……ご覧のとーり」
 立つことすら出来ずに身悶えているアヤノを指し示した。
 くすぐったさの所為か、生理的な涙を流している。
「何か、ヤモリが服ん中に侵入したっぽいんですけど」
「……、なめないでぇ……」
「……変なところ舐められてるみたいで……」
 アツロウの説明を聞きつつ、その場から動けずにいるアヤノに近づくナオヤ。アヤノはナオヤの存在に気付いたが、上手く名前が呼べないようだった。
「ヤモリ? 生き物ならお前でも取れるだろう。何故、オレを呼んだ」
 一応と思い訊ねると、アツロウは顔を背けて表情が見られないように片手で覆った。
「取ろうとしたんですけど……道を踏み外しそうになったんで……」
「良い判断だ」
 アツロウの返答と動作でアツロウの言う『道』が何なのか理解したナオヤは、賢明な判断と保たれた理性を褒めた。
 アツロウは間近に見たアヤノの艶姿に、自分では理性が吹き飛ぶと思ったのだ。
「ひゃあっ」
 アツロウを下がらせて少し様子を見るナオヤ。妙にどきどきしているアツロウと、冷静に現状を把握しているナオヤの耳に、アヤノの高い声が入る。
「んん……そんな、とこ……ひゃいらないれ……!」
 途中から呂律が回っていない。アツロウはどぎまぎした。
「ど、どこに入ったんだ……?」
「……少し離れた場所で待っていろ。俺が取る。こちらを見るな、声も聞くな」
 結局服の中に入っているというヤモリを取り出すことを決めたナオヤの命令に、アツロウは流されるように頷く。
 先ほど以上に身を揺り動かしているアヤノを心配半分、好奇心半分でちらっと見たあと、少し離れた物陰に隠れた。
(姿は見れないけど、……声くらい、聞いても良い……よな?)
 耳も塞いで待とうかと思ったアツロウだったが、どうしても好奇心には勝てず結局耳だけ自由にする。
 少しして、アヤノとナオヤの会話が聞こえた。
「ぁ……ひぁ……! やっ、やら、……、」
「少し黙っていろ」
「んん……、ん……!」
(……声だけ聞いてると、ナオヤさんが悪者だ。無理矢理みたいだ……)
 強引に口を塞いでいるのだから事実には変わりないが、アヤノの拒む声とナオヤの冷たい声のニュアンスでは、ナオヤが悪漢にしか思えない。
「……これか」
「ん……ん゛!」
「引きずり出すぞ」
(だから、どこから!!)
 溢れる好奇心のせいでアツロウは気になって気になって仕方がない。盗み見したい衝動にまで駆られた。
 悶々とするアツロウを余所に、ナオヤの合図からちょっとして、くぐもりながらも甲高い声が聞こえた。
 聞いてしまった声に、アツロウの顔は真っ赤になった。
「いいぞ、アツロウ」
「は、はい!」
 物陰から飛び出してきたアツロウの表情は赤一色に染められ、照れと興奮が混在し、挙動は慌てふためいている。
 ナオヤでなくとても、予測がつくものだ。
「注意したというのに、盗み聞きか。不躾だな。……まぁいい。年相応の欲があって結構だ」
 淡々とした口調でアツロウの盗聴を見逃す。そのナオヤが鷲掴みにしているものに、アツロウは気まずさから逃れるためにも話を振った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ