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□夏休みの課題工作は
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夏休みの課題工作は



 いいもの見せたい。ついて来て。

 それだけ言うと、アヤノはオレの手を引いてずんずん廊下を進んでいく。
 ついて来て。と言われたものの、引っ張られているのだから無理矢理連れて行かれている状態だ。この状態がイヤだとは思わないけど。
 しばらく黙って引っ張られて行くと、着いた先はオレが今まで使ったことのない部屋だった。
 アヤノがベルの王になってからは全員でヒルズを自宅代わりにしているのだが、それでも大きすぎていくつか使い道のない部屋も出た。それらを物置にするワケでもなく、空間を持て余したただの空き部屋と化していた。 今招待された部屋も、その内の1室なのだが……。

「何か、すっげーイヤな予感がする……」

 ただの空き部屋のはずなのに、イヤな感じがする。
 何か、命の危機に近いものを感じる。
「……で、見せたいものって、何だ?」
 オレの顔、絶対に引き攣ってる。だけどここは、無言で去るワケにも行かない。
 とりあえず何を見せたいのか、聞いたみた。
「いいもの」
「だからな、その『いいもの』が何だって訊いてるんだ」
 アヤノはホント、たまに話が噛み合わなくなる。子供と話している気分になる。
「ふふ……すごいよ。がんばって再現した」
 再現? 何か創作でもしたのか? アヤノの創造力、想像力、それと偏った集中力は確かにすごいし、自慢できる創作物が完成したのかもしれないけど……なら、どうしてこんなに危機感を感じる。
「きっと、びっくりするよ」
 悪戯っぽい笑みを浮かべたアヤノはやけに可愛く感じる。……ハッ! ダメだ、アヤノは男だ、男!
 そろそろオレもナオヤさんやロキが感染って来たか……、などとしみじみ切ないコトを思いながら、意味もなく広い部屋の扉を開けた。


 まずは、絶句した。
 それから、アヤノを見た。
 微笑んでいるアヤノは、やっぱり可愛いな。もう性別なんて関係ないんじゃないか。つーかアヤノ、もう人間じゃないんだから、人間の常識に縛られた考え方する必要ないよな。うん、可愛いものは可愛い。ユズのことを可愛いって思ってたのと同じだ。……ああ、アヤノを守るって、誓ってよかった。離れなかったから、今も一緒にいられるんだ。死んでも守ってやる。
 なんて、ワケの分からない現実逃避する。

 現実逃避終了。現実を見よう。
 オレは一も二もなく叫んだ。
「んぎゃああぁぁああ!! べ、べべべ……!」
 こざっぱりとした部屋の真ん中で佇み、両腕を組み、鎖をジャラジャラ鳴らしているソレ。
「ベル……デル!? ベル・デル!?」
 オレたちに一度は絶望を贈りつけてくれた、今はもうアヤノに吸収されているはずのソイツの姿を見て、咄嗟に頭を抱えてしまった。
「いやそんなはずない! これは夢だ夢だ夢だ夢夢夢!!!! ―――ッいってぇ!」
 必死に頭を横に振って、目の前の幻であったほしいものを吹き飛ばそうとしているのに、アヤノは無慈悲にもオレの頬をつねった。痛い。
「……夢じゃないのか……これは……」
「がんばったよ」
「何をだよ!!」
 3日目の悪夢が再来……!? 冗談じゃない!!
「どうかした?」
 どうしてアヤノはこんなに落ち着いてるんだ! ……何か知ってるから、だろうな。
「ア、ヤノ……! オマエ何したんだよ! ベル・デルが分離でもしたのか!? 独立宣言でもされたのか!?」
「ううん。デルは、おれが作った。外に出たいって言うから、魔力で再現した。だから、すごいがんばった」
 何か知ってるどころか元凶じゃないか!!
「そうかそうか偉い偉いってワケねーだろ! 何だよそれ! 夏休みの課題工作で作ったみたいな軽さは!」
「リアル重視だから、重いよ」
「そっちじゃなくて、作ったノリの軽さを言ってるんだ! それにこいつを再現して、どうする気だよ!?」
 オレの怒鳴りながらの問いに、アヤノは少し悩む仕草を見せた。何でそんな仕草まで可愛いんだよこのヤロー……!
 つかコイツ、ほとんど何も考えずに作ったな……!?
「……外出したいみたいだから、散歩?」
「だ・か・ら〜……」
 呑気なアヤノに呆れて溜息が出た。危機感ゼロだな、ホント。
「危険だろ? オマエ、東京封鎖3日目の悪夢を忘れたのか?」
「あれね。おれ、実は余裕勝ちだったんだよ。全部クリティカルになるし」
「オマエはそうでも、見てるこっちはひやひやしたっての……」
 不死っていうフレーズを掲げる悪魔に狙われるだけで十分悪夢だ。
 ……でも、何か意外とベル・デルが大人しい。腕を組んだままその場から動かない。やっぱりベルの王が目の前にいると、下手に身動きが取れないのか?
「大丈夫。おれの言うことは、聞いてくれるから」
 完全に上下関係が成り立ってるな。でもこれなら、確かに安心かもしれない。
「ふーん……じゃあ、平気かな……」
 そっと近づいてみる。その瞬間、ベル・デルの瞳が、ギラリと光った。
「でも近づくと噛みつくよ。おれ以外には」
「ふんぎゃああああぁぁ!!! 噛んでから言うなよ! 痛いって!!」
 こいつは犬か! ベル・デルって噛みつくキャラだったか!?
「アツロウのこと噛んだらヤドリギアタックだよ」
「だから今さら言うな!!」
 アヤノの脅しでベル・デルは噛み付いていたオレの手から離れ、大人しくなったが、ロキ許すまじ、積年の恨み、とぼそぼそ呟いている。……怖い。
 これは、ロキが来たら大変なコトに……。
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