記念を唄う御伽噺

□スウィート・ラヴァーズ
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テノスは万年雪降る北国。常に寒空の下にある。
 しかしそんなテノスでも、恋人たちは―――



スウィート・ラヴァーズ



 防寒用のローブをはためかせ、嬉しそうに歩く少年―――ルカ。
 ルカを微笑ましげに見つめてから、リカルドはどうした、と返答は大よそ承知の上で聞いた。
「だってだって! 久しぶりに帰れるんだもん!」
 リカルドは密かにそれを言うなら「久しぶりに逢える」だろう、とツッコんだ。
「……何か『帰る』とか言ってるけど、ここはルカの故郷でも何でもないじゃん。何? アイツとはもう夫婦?」
「言うなって。そこは聞き流してやれ……!」
 イリアの的確かつ小声でも声にしたツッコミに、スパーダも同じことを思いながら聞かなかったことにしようとした。
 しかしここ最近、皆(特にルカ)のお父さん的立場になりつつあるリカルドは聞き流さなかった。
「いや、聞き流す訳にはいかない。ミルダの歳では若妻にも程がある。むしろ幼妻だ」
「いやいや突っ掛かるトコ違うし。つか若妻? 幼妻?」
「馬鹿を言うな。アイツにミルダを任せられるか」
 スパーダの疑問とは全く話が噛み合わない上、リカルドの言葉は矛盾していた。
「……ルカくん、着いたわ。ほら、恋人のお出迎えまである」
「え? う、うんっ……!」
 背後から届く会話を無視したアンジュの呼びかけにキョトンとしてから、ポッと頬を朱で染めはにかんで駆けて行くルカ。可愛いなぁと皆が思うところ。
「あっルカくん、走ったら滑る……!」
 アンジュが気付き焦って呼び止めたが、嬉しさに注意力散漫していたルカは見事なこけっぷりを披露した。全員が駆け寄る。

「大丈夫ですか?……心配で目が離せません」

が、それよりも先にルカへと手を差し伸べる人。―――恋人の、アルベール―――
 以前は敵同士だった二人。しかし改心したアルベールと何度か協力し、親しくなる内に互いに恋したらしい。そしてアンジュが二人に恋を自覚させたことにより晴れて(ルカに恋する人間にはこの上なく悔しい)恋人同士になった。
 アルベールが差し出した手を取り、平気と言いながら緩慢な動きで立ち上がる。
 顔面を遠慮無くぶつけて泣きそうなルカだったが、アルベールの存在を完全に視認するとその顔は一変、嬉しさが滲み出た。
「ぁ、アル! 久しぶり!」
「ルカ、やっと逢えた。この時がとても待ち遠しかったよ」
「うん!」
 華のような笑顔で喜ぶルカに、アルベールは感極まったかその場で抱きしめた。ルカもされるがままで抱きしめれる。
「あー……『アル』って、アルベールの愛称? 一瞬理解出来なかった」
「しかもルカのこと呼び捨てしやがったぜ!? 前来た時は『君』付けだったクセに……いつの間にッ!」
「ウチらの前でイチャつかんといてな。ホンマこっちが恥ずかしいわ〜」
 二人の様子に仲間はブーイングする。それは主にスパーダとイリアだが、エルマーナはわざとらしく両手で顔を覆い笑った。
 何にせよ、二人のイチャつきようは仲間にとってピンク色の毒でしかないらしい。
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