記念を唄う御伽噺

□ハローハロウィン!
1ページ/4ページ

「ルカ君、似合ってるわ!」
「うん……ありがとう……」
 最後までやり遂げた感一杯のアンジュがにこにこな顔をしてルカに笑いかける。
 ルカは今、魔女に仮装している。魔女の恰好なのだから当然女装ということで(それもミニスカ)、ルカはすーすーする足元に戸惑いながら複雑な心境で笑みを返した。
 アンジュはルカとお揃いの魔女の仮装して、ノリきれていないルカの手を引っ張って行く。

 今日はアンジュの『大好きなイベント』一位二位を競うハロウィン。
 本来の意味などすっかり無視して、二人はいろんな人にお菓子をねだりに行くのだった。



ハロウィン



「スパーダ、トリック・オア・トリート!」
「おう、お菓子なら用意して―――ぶばっ!!!」
 スパーダはこの時のために用意したお菓子の山をデレデレな顔でルカに渡そうとしたが、それより先にルカの思わぬ不意打ちにクリティカルヒットを受けた。
「スパーダ君〜? いくらルカ君が可愛いからって、ねぇ……?」
「へ、変なこと想像すんな! 魔女なんて反則だろ!」
「えー? いっつも、女装させてみたいとか言ってたじゃない。ハロウィンはその夢を叶えてくれる日なのよ。感謝しないと、私に」
「ぐっ……女装とかさせてみたい言っていたことは認めるが、アンジュに感謝する必要はない!」
 スパーダがアンジュにそんな願望を言っているとは知らなかったルカは顔を真っ赤にさせて目線をあっちこっちに彷徨わせている。
 そんなルカの手を掴むと、スパーダはルカに笑ってみせる。ルカにとって友達の安心できる、アンジュにとって野獣のような笑顔だ。
「つーことでルカ、お菓子やるから後で俺の部屋来てくれよ?」
「うん、分かった」
 お菓子が山のように積まれている袋を渡しながら誘ったスパーダにアンジュは素早く反応する。およそ聖女らしからぬ鋭い雰囲気でスパーダの下心を切ってみせた。
「ルカ君、行っちゃダメよ。お菓子もらえる代わりに食べられちゃうから。だってスパーダ君は狼男だもの。今晩は満月だからすっごく危険よ」
「え? スパーダもお菓子貰う側なの? でも、仮装してないね」
「それはそうよ。だってスパーダ君、心がすでに赤ずきんちゃんを狙う狼のようなものだもの」
「あー! 分かった、何もしないって! だからそれ以上変なこと言うなよ、ったく……アンジュの分はエルとイリアが持ってると思うぞ」
「親切にどうも。それじゃあね、スパーダ君。……私の忠告無視して狼男になったりしたら許さないから♪」
 聖女の、眩いばかりの微笑みにスパーダは冷や汗をかいた。アンジュに釘を刺されたことによってやりたいことが出来なくなったのは痛手だが、しかしルカのお菓子を貰えた時の笑みで心満たしたスパーダは一気に上機嫌となった。
 アンジュは何て扱い易いのとほくそ笑み、スパーダは二人の話の意図をいまいち理解できず悶々と悩みながら、次の目的地へと向かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ