黄昏の騎士

□ミカンと任務
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…空が青いな。

窓から見える景色を見て、ふと、そんな事を僕は思った。


…アイツが来てから一日。

…そう、まだ一日だというのに、想像以上に騒がしい。

…全く。


…僕とマリアンとシャルの世界。


…その世界にいきなり飛び込んで来た珍獣。


「……ユウリ、か」




その名を口にする度、心の奥の奥がなんだか揺らぐ。





…この気持ちは、いったいなんなんだ。



…僕はただマリアンがいればいいんだ。



……ただ…。




「エミリオ!」

ビクッ!

そんなことを考えていたら不意に名前を呼ばれた。

「…マ、マリアンッ!」

にこやかな笑顔で彼女は笑っていた。


……なんだか、怖い。

珍しくノックしなかったし、何故か部屋に入らず、廊下に立っている。


「…実は、エミリオに見せたいものがあって」

彼女のニコニコは更に増す。

「…見せたい、もの?」

「…ほら、ユウちゃん」


…ユウ?


マリアンに手を引っ張られて、おずおずと彼女は、姿を現した。

「…なッ!!?」

自分の顔が真っ赤になるのが分かる。

「…どう可愛いでしょう?
私の御下がりだったんだけど、ピッタリだわ」

そう彼女は笑う。


「…は、恥ずかしいから見ないでよ…!」

…そう言って、彼女はそっぽを向く。


青と白で洗練されたメイド服。

彼女は見事にそれを着こなしていた。


……だが、なんでそんなスカートが短いんだッ!?

「ホントは私が着ようと思ってたんだけど…。
そんな短いのを着れる歳じゃもうないし…」

にこやかに、微笑むマリアン。

『…なんだか、性格変わってませんか?』

シャルはそう呟く。

……確かに、否定は出来ないな…。

「……うう〜 」

…ユウリの顔はまだ真っ赤なままだ。

「……ちなみに、なんでそんなことになったんだ?」

「ユウちゃんが、エミリオの専属のメイドになりたいってヒューゴ様から聞いたから」

……専属の…?

「「メイドォッ!!?」」

彼女と僕は声を揃えた。

「…いったいどういう事だッ!?」

「…わ、私にも分かんないよっ!!」

キッと彼女に睨まれる。

「…メイド長、ヒューゴ様がお呼びです」

…ひょっこりと、僕と同い歳ぐらいのメイドが顔を出した。

少し深みのかかった青色の髪。

「ありがとう、ミカン。
それじゃあふたりとも、少し行ってくるわ」

そう言うと、マリアンは急ぎ足で僕の部屋を後にした。

…なんで、アイツなんかのところへ…。


ジーー。


「……えっと」

ミカンはまだこちらを見ていた。

「…ミカンさんだっけ?」

ユウリがそう聞くと、彼女は「ミカンでいいです」と、返して来た。

「…そう。
あたしはユウ!
よろしく!」

もう聞き飽きた自己紹介だな。


ジーー


だが、まだ彼女の視線はまだ続く。


変な空気が流れる。

そして、やっと彼女が口を開いた。

「……アバ〇ストラッシュAと、アバ〇ストラッシュBを組み合わせると、アバ〇ストラッシュX(クロス)になるよ」

「……へ?」


…理解出来なかった。
更に変な空気が流れる。

「…よろしく、新米!!」

グッと親指を突き立てて、ミカンは笑った。

…晴やかってよりは悪戯っぽく…。

「…エミリオ、この屋敷って、基本的に変な人しかいないのでしょ?」

「…その中にはちゃんと貴様も含まれているがな」

「うっさい!」と彼女。

『ミカンさんは、ヒューゴ様に気に入られていて、最近屋敷に来たばかりなのに、次のメイド長は彼女だって言われてるんです!!』

「へぇ〜」とユウリは頷く。

…次期なんてない。

…メイド長はマリアンだけだ。


…だから、僕はアイツが嫌いだ。

…何考えてるか分からないし。

気付くとユウはそんなミカンの側へと近付いていた。

「…よろしく!」

…そして、手を差し出す。

ミカンはニヤリと悪戯っぽく笑った。


「…伸身の新月面が描く放物線は栄光への架け橋だ。
私の好きな言葉のひとつよ」

「あたしは、地獄の断頭台よ!!」


…キラキラ


『…あの、なんだかキラキラしたものが見えますけど?』

「…バカ同士波長でもあっているんだろ?」

「「バカッていうほうがバカなんだよ、バーカ」」

ニヤリと彼女達は笑った。


……ハァ…。


僕は、深い深い溜息を吐いた。
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