Dream

□違うの。心臓疾患なだけなの。
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ぱしーん、と音がした。

じんじんと己の頬が疼いて手を当てると少しだけ熱かった。

なんだこいつ。
本当に叩いてきたんですけど。ていうかついに叩かれた、って表現するべきかもしれない。今までの勤務態度から云えばね。

「…」

おかしい。
別に腹立たない。
やっぱり顔を叩かれたのだから少しはイラッとくるもんだとばかり思っていたが。

おかしい。
別に悲しくもない。
悔しさもない。

ただちょっと痛みがあって。
そして……胸の甘い疼き。

「隊長…すいません…」

「…、俺もだ…つい手が…」

ばつが悪そうに隊長が手を擦る。
重苦しい空気が流れる二人っきりの隊長室で私ははっきりと理解した。


「失礼し、ます」

「え、あ、あぁ…」

フラフラとよろけながらもなんとか出口に立つと、扉が開く前に隊長が口を開いた。

「お前、具合が」

「話しかけないでください」

私は隊長の言葉を遮って扉を開けて走って逃げた。

あああ。
わかった、わかってしまった。
私、隊長に恋してる。
叩かれても喜んでしまうくらい。
でも、なけなしのプライドが嫌がるのだ。恋の始まり方が大分マニアックすぎて我ながらついていけない。こんな恋、納得できん。


そう。
そうだよ。
一定の距離さえ保てば、こんな淡い気持ちなんてすぐ消滅しますよ。そうだよね。
風のように廊下を駆けながら私は、今後絶対にイザーク・ジュールと必要以上接しないと決めた。


(それから私は)

「おいイザークが呼んでたぞ」
「だってよ?」
「お前だお前、お前に言ってんの」
「へぇー」
「行かないのか?」
「うん」
「…謝りたいみたいだったぞ」
「…」
「可哀想だよなぁ、待ちぼうけ」
「…ディアッカ」
「なに」
「一緒に来てくれませんか」
「はぁ?アホか、やだよ」
「お願いっ」
「や・だ」
「お願いっお願いっお願いっ」

「もう来る必要ないわこのアマ」

「イザーク…」
「…た、隊長」

「…あーあかなり怒ってるぞアレ」
「(きゅ〜ん)…ハッ?!」
「なに」
「いやいやいや…」


(きゅ〜んて、そりゃなんじゃコラ。いや、違う。断じて違う。冷たく突き放されたからって、それにきゅんきゅんしたわけでも何でもなく。多分、そう、心臓の血管が寒さで縮こまっただけであって…)

違うの、心臓がドキドキしてるだけなの

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