Dream

□ジュール隊長は伊達じゃない
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じっとりと、思考を喰らう。

「あっつ」

クーラーを使わずに自然の風でエコに過ごそうと、その指針ゆえに扇風機の音と風鈴の音だけが涼しさを助長するのだが。さすがにコーディネーターでも耐えられない湿度であろう、イザーク?

「昼飯くれ」

ソファで寝そべっていた筈が、板張りの床の方が冷たいと気付いたらしく彼は頬をくっつけたまま、そこからあまり動かなかった。

「素麺で良い?てか反論させないけど」

「熱くなきゃ何でも」

普段はずっと動き回ってるイメージがあるだけに、こんなイザークは見ていて面白い。自慢の銀髪から覗く頬は上気して目は虚ろげ、その上四肢は力無く投げ出されているのだから、イザーク・ジュールは完全に弱っている、と言える。

床に這いつくばるイザーク。

加虐心が煽られるじゃないか。私は素麺を茹でながらニヤつく口許を無理矢理抑えつけた。こんな不埒なことを考えている自分もイザーク同様、暑さで頭が侵されかけているのだろうか。
笑いながら溜め息をついてそろそろ茹で上がる素麺をざるに移そうと鍋を持ち上げた。
その時、

「っ!!」

目を見開いて、遅れて熱さに驚くと同時に手から鍋が離れた。あ、と心で叫んだ時にはもう後のなんとやら。

「大丈夫かッ!?」

「あ、うん…でも」

「なんだ?とりあえず手とか冷やしながら話せよ!」

「りょ、了解」

隊長職はやはり伊達じゃないという事だった。あんなに暑さで死にそうだったのに。
私は少し感動しながら、先程の麺がすべてざるの外で使い物にならなくなっている光景を目にした。

「イザーク、ごめん…」

「…麺のことか?」

彼は私の視線を追ってそう答えた。

「また作れば良いだろ」

「うん…」

未だ冷やすために水の流れの中で手を握ってくれてるイザークに何だか申し訳なくなってきて私の声は小さくなった。

「次の、一緒に作るぞ」

「え?」

「貴様が危なっかしいからな」

例の自慢の銀髪からやっぱり上気した頬を覗かせてイザークは、もうそろそろ良いだろう、と私から手を離して鍋を取った。
失敗した麺を片付けて次のを茹で始めたころ。
ふたりで並んで煮えるのを待つ光景に耐えきれず吹き出したら、イザークは私のくだらない思考を読んだらしく。
慌てたフリして謝ると、懲らしめるように背後から抱き締められ。この蒸し暑さの中、私たちは沸騰してお湯が吹き零れるまでキスに夢中になっていたのだった。

fin.

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