Dream
□君に幸あれ
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それは至極簡単なことである。ただ、質問に応えれば良いだけなのだから。
『お前、結婚するのか』
否、想像以上に簡単である。
すでに妻帯者の身である同僚は、事もなく私を見据えていた。
この男、イザークは2ヶ月前に結婚していた。流石、引退したとは云えあの女傑エザリア・ジュールの一人息子。披露宴はひどく盛大で盛況あった。国内外の著名人、国賓クラスの招待者、ともかく全てが並とはレベルが違った。
私はそれをニュースの報道で見たわけだが。
「しますけど?」
薄く笑って返事をすると彼も、珍しく小さく笑いながら私におめでとうと言った。
「…イザークの奥さんさ」
「え?」
「あ、テレビの中継で式見たの。で、イザークの奥さん…本当に可愛かった、羨ましいわイザーク」
「あ、ありがとう…」
可愛かったと思ったのは本当だった。だけどそれが口を出てイザーク自身に伝わるということは。それはただただ自分への皮肉であった。彼が照れて頬を薄赤くするのが、この男に惚れている己の心を引き裂いてくれる。それでよい。こうでもしないと忘れられそうにないのだから。
傷付くことが利益になるのだから。
イザークが口を開いた。
「ま、まぁ…貴様も中々良い女だと思うぞ…だから同じように思われるだろ、周りから」
「…ふ、…そうかな」
私は笑った。
そんな言葉、別にいらなかった。
君だけが好きだというのに。
おかしくてつい、笑ってしまった。
何も知らないイザーク。
私が君を好きだったこと。
いつも大事だったこと。
君の晴れ姿に胸を抉られたこと。
泣いてしまったこと。
(誰にも知られぬまま、どこかへ)