夢幻紳士

□ひとみ
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「たかだかキスのひとつで何を怒ることがある?」
薄ら笑いに艶な流し目を見せるこの男は飄々と言ってのけた。
気に喰わない。余裕綽々な面しやがって。

「貴方だけにはされたくなかったの」
「こりゃ手厳しい…」
ハハ、と愉快そうな笑い声をあげて流れるように動いた夢幻の瞳が
私を捕らえた。滅多に聞かない笑い声に気を取られて、
夢幻の方を見たのが間違いだった。ソレを知っていたくせに私。
「おやおや、悔しそうな目だ」
「判ってるなら目線を外して、また変な手品を使ったのね」
「まさか」
「嘘はやめて、じゃあなんだっていうの?」
”なんだっていうの?”
私の云ったことを吟味するかの様に復唱すると
夢幻紳士はたいそう可笑しそうに私の顎を指先でなぞった。
目がますます反らせないのは貴方の所為じゃないってわけ!?


「俺に惚れたんだろ」



(夢幻紳士は事も無げにそう吐き捨てて荒々しく二回目のキスをしてきた。)

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