夢幻紳士

□離してくれない
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素敵な殿方には必ず素敵なレディが側にいるものだと

それは夢幻氏が嫌というほど教えてくれた。



素敵なレディは、

ときにうら若き可憐な美女で、

ときに妖艶な女性で、私が見るたび違うひと。





「それで」





「つぎはどなた」



黒い影は小さくわらった。

美しいと称される彼のその悪魔的なまでの魅力に目眩がする。





「さあね」



誰でも良いのだよ別に、

彼は来る者を拒まない主義らしかった。

そう、誰でも良い、のだ。

不意に彼の目が私の目を捕らえていたことに気づいた。

あ、と思った時にはすでに遅い。

もうずいぶんと前から私はこの人の前にひれ伏していたのだけれど

彼はそれを知っていて楽しんでいるとしか思えない。

深みに、堕とす、つもりか。

逃げたくても逃げられない。



好き、愛している、けれども



「ああ、今決めた」



それでも、



「君が、なればいい」



他の女と一緒はいや。

優秀な私の理性は彼の甘美な誘いを断った。



「冗談はよして」



彼は面白そうに片眉をあげていて

手厳しいねぇ、と至極愉快そうにわらった。





私がグラスを置いて席を立つと、ここが二人だけの別荘だったのだと思い出した。

ともかく部屋に帰りたい。

この男といると、私の心がおかしくなりそう。

はやく、はやく立ち去らないと…あ、手、



「もう寝てしまうのかえ」

「…手を、離して」









「今宵はお前だけのためにいるのだよ」




言葉がでない私を尻目に、彼はいつもの艶な笑みのまま


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