光の青葉

□及川さんの休日
1ページ/1ページ

午後1時


駅前のカフェでコーヒーを頼みながら着信のあったスマホを取り出す
ディスプレイの表示は『飛雄ちゃん』
他の奴らの表示はフルネームだけど、この子だけは特別
俺の中でも
飛雄ちゃんの中でも(たぶん)


『どこにいるんですか?』


スピーカーから聞き慣れた声がして胸が高鳴る
でも、それを表に出さないようにして応える


「どこでしょう?」


『真面目に聞いてるんですけど…』


不機嫌な声
勿論、態度にも出ている
長身で目立つ飛雄
俺は気づいているのに
あっちは気づいてない


「ぅ〜んとね、俺からは見えてるよ」


『え?』


キョロヨロと辺りを見回している
この調子じゃ夜になちゃうよ…


「ザンネンでした、時間切れ」


「…あざっす」


さっき買ったコーヒーを一つ手渡してから並んで駅へと歩く


「及川さんから誘ってくれるとか珍しっすね」


「だって、飛雄ちゃんなら暇そうだし、これでも付き合ってるからたまにはデートでも行って来いって岩ちゃんが」


ここでひとつの疑問が生じる
そもそもデートとは人に言われて行うものなのだろうか


「あ、俺、新しいシューズ買いたいんすけど」


「ん〜じゃあ…あっちかな、行くよ」


スポーツショップには野球やサッカー、テニスなど様々な競技のものが揃っていた


勿論、バレーも


「サイズは変わってない?」


「はい。そういえば、前も及川さんが選んでくれたんですよね」


「及川さんのセンスはいいからね〜」


「あ、これにします」


「話きいてる?!…らしいけど、サイズないじゃん」


黒に白いラインが入ったシューズを手に取った飛雄に言ってやると、残念そうに元の一へ戻す


「……これは?」


灰色に黒のラインが入ったシューズは飛雄のサイズにぴったりだった
ソファに座らせて右足に履かせてやると何度か足踏みをしてフィット感を確認している


「どう?」


「いいっすね、これにします」


「じゃ、買ってあげる」


飛雄がくつを履いている間に会計を済ますと、慌てて来た飛雄が返しますと財布を開いた


「いいよ、今日は奢ってあげる」


「そんな値段じゃないです」


「じゃ、プレゼント」


これで文句ないでしょ
と笑ってやると、渋々財布を閉めた


店を出ると
なんだかんだ長居をしていたらしく3時を回っていた


「そろそろ試合の時間だ…行く?」


「はい」


「じゃ、いこっか」


社会人同士の試合の決勝らしく、気をきかせた岩ちゃんがチケットを二枚くれた
正直、見るよりやる派だから面白いとは思えない(飛雄とチビちゃんの出る試合は別だけど)


飛雄が喜んでくれるならこっちも嬉しいし
人気が無い通りを見る限り、試合が始まっているらしい


「飛雄ちゃん」  


名前を呼ぶと振り向く、愛しいその唇にキスを落とし、手を握る


「さ、行こ」


「……」


顔を真っ赤にした飛雄の手を引っ張って歩く


「バカ…」


「バカで結構」

嗚呼、これだから手放せないんだよな



fin

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ