story

□冠なんていらない
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夏の日差しがジリジリと焼けるように照りつけるこの日
烏野高校バレーボール部でセッターをしている一年、影山飛雄
中学時代より『コート上の王様』という名を持つ、天才セッターだ
影山が今いるのは中学最期の試合となった体育館
今でも変わらないその姿
当たり前だ
あれからまだ一年過ぎていないのだから
人が大勢いた客席
そこに人の姿はなく、影山ただ一人しかいない
体育館の床はライトに反射し、キラキラと光っている
一歩一歩踏みしめるようにその床の感触を確かめる


「…………………」


体育倉庫にあるのは見慣れたボール
これは自分がコートを去るきっかけとなったボールだろうか 
そのボールを床に打ち付ける
そのままジャンプサーブをする
ネットは張っていない
仲間も相手もいない
しかし影山には見えていた
そのサーブは相手によって床に落ちることなく上がる
それと同時に大きな歓声そしてセッターへと渡ったボールは宙に舞う
そして再び自分のコートへ
しかしそれは誰にも拾われることはない
影山にボールは渡らない
家臣に見捨てられた王様に処刑宣告がされたようなものだ


タンッ


床を踏む音と落ちるスレスレのボールと床の間に割り込むように入られた手
ボールが再び上がった
影山の目にもそれが映る
反射的に影山はボールの下に立つ
背後に感じた小さな風
アイツがらいると影山は感じた
コート上にいる12人の中で圧倒的な存在感
影山の手からまっすぐ放たれたボールは一人の選手のアタックによって相手コートに落ちた


「ナイストス!影山!!」


「影山ぁ!やるじゃねぇか!!」


「のやっさんもナイス!」


仲間の声
コート上の王様のもとへ集まる家臣
いいや、王様じゃない
一人のバレーボールプレイヤーの仲間だ


「………あざっす!」
  

円陣の中へ影山も入っていく
王様の独裁王国は消えた
そこは仲間という新たな信頼のある王国だ







貴族、農民、家臣、そして王様 
身分の区別もない






王様の頭にあった小さな冠に意味はなくなった
























今、新たな仲間と未来へ歩み始めた王様の頭に冠は












「必要ない」

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