お話

□悲哀
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中也side

「は、離さないで…」

消えゆきそうなほどの小さな声、

俺の手を握るほっそりとした長い指、

暖かいがとても震えている、

仕方なく彼女の隣のベットに寝転ぶ、

明かりを消すと目を閉じるが
視覚が働かないためか

彼女の夏みかんの匂いと
温度が伝わって俺を侵す、

チッ カチカチッ カチンッカチッ

 カチドクンッカチ 五月蝿いカチッ
ドクンッ カチ カチッ

五月蝿いカチカコチ、

五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い

「うるせぇー」ぼそりと呟き、

目をそっと開く、「うっ…」

長いまつげ、整った顔、艶やかな唇、
サラリとした肌、着物から
チラリとみえる胸元、

こんな無防備だから
あんな男に触られるんだ、

急に彼女が俺を腕で包み込まれる、
彼女の心臓の音が俺の心臓の音と共鳴する、

しかし彼女の肩は震えていた、
どうしようもなく頭をそっと撫でる、

震えが止まった、

彼女の寝息にまぶたが重く下がってゆく



丁side

暖かい日差しが私を包み込む、
目を開き驚く、

男が!男が私の腕の中にいた、

慌てる昨日の事をおもいだす、

異能力の男、

昨日は気づかなかったが良く見ると

可愛いらしい顔をして寝ている、

そんな男を起こさないように
慎重にベットからでる、

彼の物と思われるトランクケースに躓く、

「うわぁっ」

ゴッ!鈍いおとがする、

膝擦りむいた…

トランクケースから蹴り出た物を
入れようとトランクを見る、

しかしそこには奇妙な物があった、


こ、これって拳銃?

ドサッ、急に視界が回転する、

「よぉ、助けた人に対してガサ入れたぁ、
良い度胸してんじゃねぇか」

震える手から拳銃を奪われ、
頭に突きつけられる、

「あなたは、一体?」

昨日はあんなに良い人だったのに、
なんで?

「俺ぁポートマフィアの中原中也だ、
まあ、もうこの世から消え去る
あんたには関係ねぇ事だからな、」

や、やだ、やだ、こんな奴に殺されてたまるか、

力を振り絞り男のトランクに入っていた、

ナイフを掴み切りかかる、
側にあった服を投げ、

部屋を出、非常階段を使いながら

あの人が言っていたことを思い出す

「相手と情報量が等しい時は
裏をかいた方が勝つ、
相手に情報量で劣る時は
何を為ても勝てない、」

「だからこそその逆をする、てめぇ、
やっぱりあの太宰の知り合いか、
朝っぱらから寝たふりしながら
その名前を聞くったぁ、
最悪だな、」

其処では中原が銃を持ち、
待ち構えていた、

「よぉ、俺の正体さえ知らなかったら、
まだ、生かして帰るつもりだったけどよ、
知られちまったら仕方ねぇな、」

撃たれる、殺される、と思った、

しかしそれでよかったのだ、

ただ運がなかっただけなのだ、

昨晩の屈辱を忘れるには丁度いいや、

「てめぇ、なんで笑ってやがる、」

不謹慎そうな顔をする中原に言われ、
気づく、自分では気づかなかった、
まさか笑っていたなんて、

でも、

多分、


「あなたに殺されるのなら、
まあ、いいかなって思ったんです、
昨日はあんな目にあっちゃいましたからね、
太宰さんが言っていたんです、
自分が汚れてしまったら
上書きしてしまえばいいんだと、
だけど私、思うんです、
汚れてしまったら上書きする以外にも、
自分の意識ごと
抹消してしまえばいいんだと、

だから、

とっても嬉しいんです、

ありがとうございます、

中原中也さん、」

ニコニコとすがすがしく笑う彼女は
中原の元相棒のようで、
 
呆然と立ち尽くす男は言う、

「お前に残された選択肢は二つだ、
一つめ、今すぐこの拳銃で撃ち殺す、
二つめ、俺にてめぇの上書きを手伝わせる、
そして、一生ポートマフィアに入って
俺の側で仕事してもらう、
ただ、マフィアもいろいろ厳しいからな、
良く考えろよ、」

唖然と中原を見つめる丁、

「俺は、其処まで
気が長いほうじゃねぇぞ、」

銃口を再び当てる、

彼女は笑顔で答える

「二つめの方で」

中原は問いかける、

「名前はなんていうんだ?」

さっきとはうって変わった態度に
安心する丁、

「丁、です」

彼女はこれから色んな事を
中原から教わる事だろう、

これはそんな中原と彼女の出会いの物語
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