お話

□深海少女アナザー
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冷たく鋭い雨水が横浜の市街地に降り注ぐ、

傘をさす人、

傘を持っておらず慌てて建物にはいる人、

人の居ない静かな公園、



もう少しで雨水で満杯になりそうなバケツ、

一定のテンポで草から垂れる水滴、

壁にノシノシと登る蝸牛、

ハァッ!ハァッ!ハァッ!

そんな中1人の青年が
傘をささず街を駆け抜ける

青年は探していた、

自分の罪を、

償いを、

唯一の手掛かりだった血は、
雨に流されていた、

今は己の本能の赴く儘に探していた、

しかし青年は何時もより何故か冷静だった

青年はふと考えた、

彼女は孤児院を追い出され、

青年に会うまで一体何処で住んでいたのだろうか、

お金は無かったはずだ、

青年も孤児院を追い出された時無かったのだから、

だとしたら、

盗んだのか

青年に罪悪感が押し寄せる

しかし今は罪悪感に浸っている暇はない、

河川敷、

廃工場、

倉庫、

施設、

路地裏…

思い当たる色々な場所を探す、

…微かに彼女の匂いが鼻を触った

匂いが近づく




青年は何となく気が付いていた、

彼女は自分の事を知っていることも、

匂いが一緒だったから、

最初会ったときから
彼女は僕に心を許してないとおもったから

ごめん、

ごめんなさい、

気づけなくて、

僕がもっと君たちの事を考えていたら…

先ほど倉庫で起きた出来事が脳裏に蘇る

黒い外套に身を包み上から此方を睨み付ける芥川、

何故か居た太宰さん、

愛する人たちを抱きしめ泣き叫ぶ
朱色に染まった彼女、

彼女に会ったらなんて言おう、

そんな事を思いながら青年は進む、

壁にもたれて寝ていた、

彼女は其処にいた、

慌てて駆け寄る、 

微かだが脈はある、

「あ…し耳貸して」

彼女は痛みで眉をひそめながら何かを伝えようとした、

「しゃべっちゃだめだ!僕はまだ君に沢山伝えなきゃいけないことが…」

僕は彼女を背負い探偵社に向かおうとするそんな僕の服の肩を力の無くなりつつある手でギュッと掴む




「ごめん、敦の事好きになってたかもしれなぃ…」




そう言った彼女の身体は
もう背中越しでも解る程冷たい物になっていた
僕はそれを誤魔化すように
必死に話しかける、
長い路地裏を抜けると太宰さんが居た、

「敦君、もう彼女は…」

僕はそんな言葉を無視して

黙々と必死にがむしゃらに歩いた、



ドサッ




誰かに腹を蹴られ、
深い眠りにつく、


「おい、太宰、これで本当によかったのか?」

青年の腹を蹴ったメガネの凛々しい男が問う、

問われた男は終始無言で一言だけ呟いた

「運ばないとね…」

地面に転がる2つの地面に転がった身体をずっと見ていた、









真っ白

目を覚ました時、

僕は頭も目の前の景色も真っ白だった、

彼女の元へ向かおうとするが、

手足が鎖で拘束されているため動けない、

動こうと足掻くとガシャガシャと音が響く、



「起きたかい?」


聞き覚えのある声が、した、

「太宰さん、どういうつもりですか?」

太宰さんは何時も通り薄気味悪い笑顔を浮かべていた、

「敦君、先程、というより、
君が最後に意識があった約一時間前の
出来事を覚えているかい?」

僕は先程の真っ白になった
彼女の顔を思い出し、
太宰さんを睨む

「一生忘れ無いほど覚えてますよ、」

苦虫を噛み潰したような顔をする、

しんとした真っ白い部屋の中、

僕はそっと口を開く

「彼女は?」

わかっていた、

わかっていたのだ、


それでも聞いた、




悲しみに打ちひしがれて

さっさと楽になりたかったから、


心臓の動く音が感じとれる、
早く動き、

僕の醜い赤い液体を身体に循環させている、


「そんな事して、楽になると思う?」

心臓の音が遠くなる、

ガラン

そんな音が心に響いた

今日、

食事した、


おぶった彼女の顔がすっと蘇る、

思わず目尻が暑くなる

「こうでもしないと僕、
壊れてしまいそうなんです、」

太宰さんは一歩、
また一歩と此方に足を踏み出す

「漸く償うべき相手が見つかったと言うのに、
このまま相手の様子ばかり
疑って償わないのかい?」

ガシャ

手足の鎖がとれる、


僕はただその手足を見つめる、


「すみません、今日は仕事休みます、」


僕は決意を固め、そっと呟く、









晴れ渡る青々とした空、


遠くにみえる蜃気楼、


賑わう中華街、





僕はそんな所から少し離れたいつかの路地裏で




彼女たちの灰が入った



    骨壷






   勿忘草の花






を置いてその場を立ち去った

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