お話

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愛するものが死んだ時には、
自殺しなけあなりません。

愛するものが死んだ時には、
それより他に、方法がない。


ではみなさん、
喜び過ぎず悲しみ過ぎず、
テムポ正しく、握手をしませう。

つまり、我等に欠けてるものは、
実直なんぞと、心得まして。

ハイ、ではみなさん、
ハイ、御一緒に ――

テムポ正しく、握手をしませう。

中原中也「春日狂想」より







学校のチャイムは相も変わらず
無機質に鳴る、

授業はいつも通り、

おかしな事をやる奴もいれば、
其れを笑う奴も居るし

そんな事どうだっていいとでも云うように
黒板にかかれた文字をノートに写してる奴もいるし、

寝てる奴も、コソコソ話をして笑ってる奴もいる、

そんな中で一人の男子生徒はふと思った、

「アイツ、またきてねぇのか、」

まあ、俺には家が隣ってだけで、
関係はねぇが、

偶にはからかいに行くか、

放課後の予定を頭で軽く建て、
暇そうにではあったが、
黒板の文字を移す、

今、彼の目の前に在るのは、
一つの部屋という名の空間、
其処には生活に必要な物がある程度揃っており、そんな空間で、一人彼の存在に驚くのは部屋の主であるな、訳で

「よぉ、来てやったぞ、んだよ、
そんな吃驚したような顔しやがって」

「いや、窓から人がはいってきたら
誰でも驚くし、知らない人だったらケータイ持って、外に出て通報してる。」

そういって手をケータイの方に伸ばすふりをする

「不可抗力だ、誰かのお母さまが、
入れてくんねぇし、」

そういって部屋に入ると目に付いたのは

「薬?」

少し慌てたように隠す。
次の瞬間ドアの方から強烈な音がした
ドアをこじ開けようとしていると気づくのに少しの時間が掛かった、
しばらくして母親の声が聞こえた、
あんたは昔からこうだ、ああだと、

は、彼に聞かれたく無かったのだろう、
どこかから音楽プレーヤーを持ち出し、
イヤホンを彼の両耳に付けた、
彼女は歌い始めた、彼が聞いている曲を、
彼はその間の彼女の表情をじっと見ていた、

今にも死んでしまいそうな目、
彼女の歌う歌は明るいものなのに、

しばらくして母親は諦めたらしく
部屋は静けさを取り戻した、

「悪いね、嫌な物聞かせちゃって、
引いた?そりゃそうだよね、学校行ってない私が悪いのよね…」

そういって彼女は、なにを思ったのか机の横に掛けてある紙袋から何かを取り出した

「ねぇ、引いたのだったら、ついでに、
私の話を聞いて貰える?」

彼は少し戸惑ったように彼女を見ながら
首を静かに縦に振った、

彼女は静かに話を始めた、

「二年半、付き合ってた彼が死んだ、
其れから私、
宛ての無い手紙なんて書いて
目が白と黒しかわかんなくなった、
死のうと思ったけど、死ねないの、
ごめんね、こんな未練タラタラ女で、
ごめんなさい、後もう少しなの、
後もう少しで全ての感情が消えてくれるの、
そしたら普通に学校にいけるよ、
だから其れまで待って、」

彼女はそのまま泣き崩れた、


俺は其れを黙って見ることしかできなかった、

俺は昔から彼女をどこか人間味が無い奴だと感じていた、

そんな彼女にも、こんなに人間味なるものがあった、

しかし彼女は今度こそ其れを抹消しようとしている、

彼女に対して無関心だった俺に出来るのか、

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