今日は何の日?(小説)

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依頼を完了し、
探偵社に戻ろうと路地裏に行く、

「汚れちまった悲しみに」

そう聞こえた後、
丁の身体が宙に浮く、
冷静に現状を理解する、

「中原中也、」

黒い帽子、手首まで隠れる手袋、
首元にあるチョーカをみるたび
リードを着けて散歩したくなる、

まあ、

今の状況ではなっても
真逆の事にしかならないだろうが

「よぉ、探偵社の 
丁じゃぁねぇか、
こんな所であうとはな、」

顔に感情は出さない、
丁に、話を続ける中原

「まあ、な、此処でてめぇを
殺してもいいが…」

急に丁の顔が歪む

「ぐっはっ!」驚く中原、

能力のせいでは無い

「おい!お前どうした?!」

能力が解かれ、 
地面に落ちる丁、
額には汗が垂れ落ち、
唸り声をあげている、

「おい!目開けろ、おい!」

パチッと目を開け、
ニヤリと笑う

「あっ…」

気づいた時には遅かった、
素早く飛び上がり、
ビルを駆け上る、
動きづらいジーンズとブーツで
とても人間技だとは思え無い体術、
背中越しの満月に中原はつい

「綺麗だ」

と口を零す、
あっという間に
何処かへ行ってしまった


 


息が吸えない、
肺の中に棘があるように痛い、
ビルからビルへ、
飛び移ろうとするが躓き直下する、
バサッ!運良くゴミ回収場に落ちる

「かはっ!がはっ!」

直ぐに立ち上がり
大通りに行こうとするが、
うまく身体が動かない、

諦めて少し休もうと、
壁際に背中を預ける、
目の前に
綺麗な薄紫色の花が咲いていた、

「ニゲラ、花言葉悩み」

丁には悩みがあった、
あの小さな黒い人へ、
奇異なる感情を抱いていた、
一生表には出ないその感情を彼女は
表情とともに隠していた、

体力が戻り探偵社に帰る、
扉を開け

「戻りましたぁ」

とだけ、言って社長に報告をする、

「ご苦労だった」

そう言われ部屋を後にして、
自分の机に座る
 
「ねぇねぇ?何かあった?」

隣から太宰がちょっかいをだす、

「五月蝿い構うな気持ち悪い」

悪口三連に
傷付いた振りをする太宰、

「もしかして、中也にでもあった?」

動作が止まる、太宰を睨む、

「そんな怖い顔されてもねぇ?」

太宰には効果がなかったよう

「前から思ってたんだけど、
丁ってもしかして
中也の事好きなの?」

動作が止まる、

「中也の電話番号教えてあげようか?」

ニヤリと笑いながら甘い言葉を囁く

「何が目的?」

眉をひそめるが
そのほかは表情に出さない

「まあ、何が目的であっても要らない、
信用出来ないし、どうでもいい、
それより太宰、何故
中原中也の電話番号を知っている、」

黙り込む太宰、
そこへ与謝野が入ってきた、

「丁、ちょっといいかい?」

「つくづく運の良い奴だな、」

とだけ言って
与謝野の元に行った、
与謝野に連れられ、
ついたのは屋上、

「晶子、どうした?」

いつもとふいんきが違う
黙りこくったままこっちを向いている、

「お、おい、晶子?」

ぎゅっ!

抱きつかれ、
一瞬の出来事に唖然とする、

「お、おい、どうしたんだよ、」

泣きつく与謝野、
暖かい涙が服から皮膚へ感じ取れる、

「なんで!なんで!
あたしに言わなかった」

その一言で全てを理解した、

「何時、気づいた…
誰かにいったのか?」

取りあえず他の人に
気づかれていないか心配だった、

パシッ!

乾いた音が響く

「あんた、心配する所がちがうだろ!」 

染みる痛みは心にも届いた、

「悪かったね、病人を叩いちまって、
前に手洗いで吐血してたろ、
あの時丁度あたしが入ろうとしててね、
取りあえず、
今日はあんたの身体を
見せて欲しいんだ、皆の為にも」

らしくもない言葉を言う与謝野、

「いや、もう助からない、
これは自分が一番知ってる、
例え晶子でも絶対に、」

そう聞かされた与謝野の顔は
私も見ていられなくって、

再び泣きつく与謝野に無力な私は

ふと、
扉の近くに寂しげに咲いている、

花をみていた、

「シオン花言葉、遠くにいる貴方を思う」

そっと呟いた言葉は与謝野にも、

もちろん私の思う相手も

聞こえていないだろう、

しかし、

私はいつまでも思う、

中原中也、あなたの事を、

落ち着いて疲れ果てたのか
眠りについた与謝野を
医務室に運ぶ、
自分の机で作業を再会させようと
事務室に戻ると何やら騒々しかった、
国木田が此方に気づく

「丁、戻っていたのか丁度いい、」

と言って差し出してきたのは

「鬼灯?」

赤い異様な形の鬼灯、

「先程の依頼主が
これを置いて帰ってしまった、
なにぶんご老体だったからな、
電話をかけて此方に足を運んで貰うより、 
此方からいかなければ、」

こういう時に無駄に親切な国木田を
心のどこかでクスッと笑って鬼灯を預かった、

「分かった、じゃあ行ってくる、」

扉の重く閉じる音がする、

私は探偵社を後にした、

依頼主のおばあさんを見つけるのは 
そう手間を取るようなことでは
なかった、お礼にと、
一枝だけ鬼灯をもらう、 

先程、中原中也と会った道を通り、
探偵社へ帰る、
また会えるかもしれないから、 

コツンコツンと自分のブーツの音がする、 
サッァサッァ、服がこすれて乾いた音が
耳に届く、コツンコツン新たに
自分の靴以外の音がする、
少し歩いた所で折りたたみナイフを
取り出しながら素早く開き
勢い良く後ろを向いた

「よぉ、探偵社、
此処で逢うのは二度目じゃねぇか、」

其奴はナイフの先に指を当てると
ギイッという不協和音を奏でながら
九十度にまがる、

「ちっ、」

ナイフが無意味だと分かり
男に向かい突っ込む、

「中原中也、私は君が大っきらいだ、」

そう言って胸ポケットに
赤い物を入れ逃げ去る、
逃げ去る彼女を見送り、
胸ポケットに刺された鬼灯を見る、

「鬼灯か、」

鬼灯の花言葉は嘘、偽り

それを知ってか知らずか彼は
ニヤリと笑いながら
鬼灯の甘い匂いを嗅いだ


走り逃げるが、
肺が痛み足がもつれ、
倒れるああ、
私は後余命何ヶ月だろう、
いや、何日だろうか、
探偵社に戻る、事務室に入る前に
与謝野に捕まる、

「悪かったね、迷惑かけて、
ただこれだけは言わせてもらうよ、
後悔しないように生きて、」

そう言われた後、
私はまた直ぐあの路地裏に
走っていった、

着いた時、
肺に痛みが走った、
喉が痛い、
口内に血と胃酸の匂いと味が漂う、
目の前がチカチカとする、

「演技じゃ無かったんだな、」

背後から聞き慣れた声が聞こえる、

「また会えると信じてたよ、」

声が出てくる、
ずっと封じ込めていた感情はそっと
川がユタユタと流れるように出てくる、

「俺もだ、」

座り込んだ私の隣に彼が座る、
丁がキスするふりをする

「怖い?移しちゃうかもよ?」

「何で怖がるんだよ」

中原の言葉につまらなさそうに
笑いながら、元の位置に座る

「捕まえようとしないのね」

「捕まえて欲しいのか?」

「いや、ただ少しだけ楽しいと
思ったから、」

静まり返る路地裏

「此、やるよ、」

と言われてもらったのは
赤黒い実のついた枝、
これは…

「クワ?花言葉は…?」

中原がぎゅっと引き寄せ、

「一緒に死のう」

表情のなかった彼女には
明るい花が一輪咲いた



花の日

なんじゃこりぁーーー!

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