今日は何の日?(小説)

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こんがりと焼けた良い匂いを
店内に漂す麦わら帽子、

テカと艶びやかな皮でできた
ボーダーハット、

古めかしいふいんきのハンチング、

ぴょこりと可愛らしい紐の生えた
ベレー帽、

今日もこの店の店主である丁は、
帽子達と運命の相手を探している、

ガランガラン、
扉の音が静かに鳴り、
コツコツと鶴のように
軽い足取りで男が入ってくる、

「いらっしゃいませ、
ご自由に見ていって下さい、」

藍色のスーツに黒ベスト、
という塵一つ無い
しっかりとした服装、

格好に似合わずのくりっとした
どちらかと云うと可愛らしい目と、
それを縁取る黒い眼鏡、
男は店を見渡し商品を見ていた、
顔に似合わずニット帽などが
気になるようだった、

「店主、」

突然の問いかけにびっくりする、

「は、はい!」

「私に似合う帽子を
探していただけませんか?」

改めて観てみると
細い長い眉毛が綺麗だな、と思った、
男と合いそうな帽子をさがす、

「合わせる服は其方で
よろしかったでしょうか?」

男は少し考えた末、

「ええ、この服装で構いません、但し、
色に白は入れないで下さい。」

それなら…と丁が
店の奥から出したのは

「この帽子などはいかがでしょうか?
お客様の今着ていらっしゃる
黒色のベストに合わせてみたのですが、
勿論、上着に合わせて藍色でも、
お客様とってもお似合いだと
思いますよ、
でも…お客様本当に此方へは
帽子をお求めに入られたのですか?」

「其れはどういう事でしょう?」

ハッと我に帰る、

「あっ!も!申し訳ありませんでした!
このような不躾な質問!
帽子屋に入るのですから
帽子をお求めなのですよね?」

ど、どうしよう、絶対怒ってる!

「ほ、本当に申し訳…
「構いません」」

へ?


「事実此処へは帽子を購入しに
来たわけではありません、
謝罪するべきは私の方なのです。」

丁が唖然としている中、
男は自分がこの帽子屋に
来た経緯を話した、

話を聞く所によると
男の名前は坂口安吾というもので、
お仕事の関係で
或る人物に会う予定だったのが、
会いに行く途中で
追われる身になってしまった所、
私の店に入って
身の安全を確保したとか、

「ご理解頂けると幸いなのですが…」

其処へ入口の方から
カラカラと音がした、
如何しようかと辺りを見渡す安吾に
丁は腕を掴み、
店の奥へと案内した

「ここの建物の間取りは残念ながら
古い建物故、裏口が付いておりません、
ですがご安心ください、
私の祖父による改造にて
こちらに隠し部屋なるものを
作って頂きました」

少しドヤ顔の店主に、
ならば普通に裏口を
作れば良かったのではないか?
とは思ったが口に出さず
彼女に付いて行った、
扉の奥にあったのは
一見執務室の様な所だった、
しかし彼女が戸棚をいじくると、

ずるずると、
音を出し螺旋階段が現れた

「お先に上って下さい」

ぺこりと丁に一礼し階段を上る、
上まで着いてようやく安吾は気付いた

「なんで上ってこないんですか」

まさか、罠?!
彼女はスイッチを再び押し
螺旋階段を仕舞う、

「どんな訳であれ、
大切なお客様をお守りするのが
店主の役目です、それに、
もし今いらっしゃったのが
帽子をお求めに入らしたお方だったらと
考えると此が得策です、
ご安心下さい、中は広々とした
快適な空間と成っています、」

螺旋花壇が完全に仕舞われ、道行く先は
一つの扉のみとなった、
警戒しながら扉の奥をそっと見る、
誰もいないのを確認してから
そっと部屋に入る
個室よりは狭いものの
彼女の言ったとおり快適な空間だった、
彼は不意に昔の事を思い出していた、亡くなった一人の友人と、
其れを誰よりも悲しんだ友人、
また同じことの繰り返しなのか?
騙して心配をお掛けして、
その上利用して、彼女も、
彼女が愛する帽子達も
傷つけてしまうのでは?


一方その頃
コッッコッッコッッコッッ

此から来るお客様に対応する為
丁は、
祖父から貰い受けていた
リボルバーを机越しに、
片手に待ち構えていた、
ぎぃーっと扉の開く音がする、

扉の向こうには赤毛の三つ編みの少女と
真っ白なスーツの外国人がいた、
「いらっしゃいませ、」
此が安吾様の仰っていた追っ手?
そう思っている内に白スーツの男が
丁に近づいた、
丁の顔を覗き込み
じっと色んな角度から顔をながめる、

「君、さっきここに
丸眼鏡の紳士が来なかったかね?」

ニコリと最上級の笑顔を見せる
白スーツの男に丁は確信を抱き

出来るだけ冷静に言う

「そのような方は此方に 
御入店頂いておりません
申し訳ありませんが
他店をお探し下さい、」

リボルバーにしっかり手を掛け、
撃つ用意をする
男は尚も丁の顔を覗き込んで居る、

「其れは、本当かい?」

其の言葉に手に汗が滲む、

「お嬢さん、此の方に嘘なんて、
吐かない方が良くてよ、」

自身に似合うキャペリンを持った
三つ編みの少女が間から口を挟んだ、

「此の方のお力ならこんな古屋も、
貴方も、勿論私達の探している
丸眼鏡の方も、
勿論貴方の大切な帽子も灰に成ります…」

パァン!

言葉が終わるより前に
部屋に鈍い銃声が響く、

「最近の女性は物騒な物を持つようだ、」

0距離で撃った銀の弾は
少女の前に立っていた
男の胸元に掠り傷を
付けただけだった、

もう一度引き金を引く

「痒いな、」

もう一度

「くすぐったいぞ、」

もう一度引き金を引こうとするが

かちゃっ!かちゃっ!

弾切れ、
白スーツの男に首を掴まれ
再び問い詰められた、

「丸眼鏡の男、いや、
ミスタ安吾は何処かね?」

強まる握力に意識が遠のく

「もう一度聞く、何処だ?」

うぐぅぅ、喘ぎ声にしかならない
声が響く、

「此では、話が聞け無いな、」

そういって近くにあったグラスを割り
欠片を飲み込ませる、
口内や胃を傷付け、
意識を飛ばしかけていた
丁を起こす、

「あぐあああぁぁぁぁぁ!」

彼女は目を見開き
男の手を僅かな握力で
振り解こうとする、

「さて、目覚めた所でもう一度問おう、
ミスタ安吾はどこだ?
先程からモンメゴリ君に
探させて居るのだが
見つからないようなのだ、
裏口も無いようだし、
この屋敷に居るのは確かだろう。」

苦しむ丁に問いかけるが
丁に答える気はなかった、

「仕方ない、そうだね、俺に似合う
この真っ白なソフトハット
なんてどうかな?」

とてもお似合いだと思いますよと、
言う体力も義理もない
丁を横目に男はソフトハットを
破り捨てた

「あああぁぁぁぁぁぁ!!」

瞬間白スーツの男は
後ろへ吹き飛ばされ、
帽子達はケースへ仕舞われ、
彼女は黒い死神のような大きな鎌、
ボロボロな黒い喪服、
真っ赤な真っ赤な見開ききった目、
歪んだ、トマトのように真っ赤な唇と
その間から見える血まみれの歯
黒い髪に刺さる白い簪、
 
「七つの棺」

先程とは打って変わった高い声に
室内は緊張し、
呼ばれたように出て来たのは
言葉通りの七つの棺、
ギィーっと異様な音をたて、
出て来たのは、
七人のホルンやフルート、
バスクラなどを持った死神、

「汝、我主を幻を魅せし頃
我が肉を喰い血を啜り
妖しき者を討て、」

呪文のような言葉が終わり、
死神達かが一斉に丁に噛みつく

「うぎやゃゃゃぁぁ!」

喰われてもがき苦しむ丁を
よそにそれぞれの楽器の死神は

笑いながら奏でる、

狂いながら奏でる、

「うぐっ!」

白スーツの男が膝を床に着ける、

「此は異能?!」

死神達は尚も奏でる

「フィ、フィッゼラルド様、?
これは一体?!」

安吾を探していたモンメゴリは
ふらつきながら
フィッゼラルドに近づく

「わからない、大凡だが
この小娘の異能だろう、
一時撤退するぞ、」

そういって逃げる二人、
「にがさねぇよぉ?!!」

そういって鎌を振り回す丁、

「コイツ、危ないですわ!」

なんとか逃げ切り外に脱した二人
とは反対に暴走した丁は、

「アハッアハッアハッアハッアハハハハハハヒヒヒャキャャャャァアハハハ!」

7人の死神と共に丁は
屋敷を破壊する、

「我に血を肉を!破壊を!暴虐を!
キャハハハハ!」

もう丁の自我は残って居なかった、
屋敷の異変に安吾が気付く、

「丁さん…」

安吾のいる部屋が揺れ、 
床が崩れる、

「うわぁっ!」

床だった石の上に堕ちる、

「こ、これは…」

それは地獄だった、
火の燃え盛る屋敷に
変わり果てた丁と
7人の死神はいた、

「う゛う゛う゛う゛あああぁぁぁぁぁぁ!!」

丁はとても苦しんでいた、
少なくとも安吾には
そう思えてならなかった、

「丁さん!!」

近づく安吾を鎌で攻撃する丁、

「…だい…」

丁がボソリと呟く、

「イダイ!イダイ!イダイ!
イダイ!イダイ!イダイ!イダイ!
イダイ!イダイ!イダイ!イダイ!
イダイ!イダイ!イダイ!イダイ!
イダイ!イダイ!イダイ!イダイ!
イダイ!」

痛みを叫びながら
先程より明らかに早く
鎌を振り回す、

「丁さん!丁さん!」

丁に近づこうとするが
早い鎌技に諦めようとする、
途端に頭に鮮やかな映像が流れる、
裏切り者である私を助けようと
自らの命をかける或る男、
私を憎み睨むあの人、
足が丁に向かう、
後少し、後少しで彼女に…

ぐぅっ!

丁を両手で包む、

「イダイ!イダイ!イダイ!イダイ!
イダイイダイイタいイタい
いたいいたい…」 

真っ黒な喪服が消え、
元の服に戻る、
7人の死神は棺に帰る、

「あぐっ」

目の焦点が合っていない、
兎に角このままでは丁が危ない、
安吾は一心に彼女を、
嫌、自分自身を救いたかった、
もう二度とあの出来事は
繰り返したくない、もう二度と、

そして彼女を背に乗せ
あの人達の元へ走る、
なんとしてでも助けなくては、
自らを捨てても、
そういって安吾は
赤いビルジングを目指し走っていった、
              

 




もはや、夢小説じゃない、ごめん、

『七つの棺』作者折原一先生より
頂きました!

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