今日は何の日?(小説)

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彼と付き合い始めて二年、


彼と出会ってもう直ぐ三年、


デートも、
お互いの仕事終わりが主だがした、

キスも一方的だがされた、

お互いに愛はあった、

只私は、肝心の一歩を
まだ踏んでいなかった、

これまで一度も己から
「愛してる」と言った試しがない、

彼から云ってもらうか、

彼に強制に云わされたものしかない、

その癖昔からの友人である与謝野に

好きだとか、

世界一大切だとか、

言っている。

与謝野は何処か彼と似てるから、

多分つい本心が出てしまうのだと

思う、でも、やっと言えた、

何故かは解らない、

ポロッと蛇口から水滴が落ちるように

呆気なく言えた、

「愛してる」

と、その時彼は報告書らしき物を

まとめていた、手が止まるが直ぐに

再開する、

「僕は…君が大嫌いだ、」

言葉を理解するのに

長い時間を得たような気がする、

彼は報告書を封筒に詰め込んでから

私の家から逃げ出すように

出て行った、

すぐ後に私は自室に入り。

毛布とベッドの隙間に

身体を入り込ました、

彼の匂いがして、自然と涙が出る、

私がもっと早く

愛してるって伝えたら、




三日経って当然の如く

彼から連絡は来ない

探偵社の仕事を終えた私は、

妙な違和感を覚えてしまった、

重い足を引っ張りながら自宅に帰る、

自宅の前には

白スーツの男が立っていた、

男は私に気付くと手元の写真を

確認して要件を淡々と言う



「ジョンスタインベックが
ある異能者の呪いで無くなった」



と、先日彼から「大嫌いだ、」

と言われるよりもっともっと

長い時間を要した、

私は目の前のスーツの男に


しがみつき、嘘だ、嘘だろ、


と目を背けたい現実の

再確認をしていた、

そんな冷たい物ではないとは

知りながらも、

私は男にずっと叫んでいた、

漸くしてやっと落ち着いたとき、

私は白スーツの男を家に上げた、

白スーツは彼の上司だそうだ、

私は彼が何の職に就いているか

知らなかった、

お互いどんな職についているかは

言わないのが暗黙のルールに

なりかけていた、

私はお茶を入れるべくヤカンに

水をくべた、

「彼はなんで呪いにかかったんですか」

水の音がやけに部屋に響く

「四日前、或る組織と諍いがあった、
その組織を崩壊すべく
スタインベック君達を差し向けた、
本当なら他の同僚が受けるはずだった
呪いを彼は身代わりに受けた」

彼らしくもない、

私は何となくそう思った、

彼はどこか冷たいところがあったから、

家族やお金以外は大切にしないと

思っていた、

私はヤカンに火を入れながら

彼の事を思った

「彼は苦しんだのでしょうか、」

四日間の間私は彼に

何もしてあげられなかった、

大嫌いだと云われたくらいで

一人グレて何処かおかしいと

気づいてたのに、

少し凹凸の入りかけた

フローリングを見下ろし

私は瞼に熱が集まるのを確かに感じた

「とても苦しんでいた、熱や、嘔吐、
幻覚、幻聴、どれも酷かったらしい」

私の内心を写し出すように

ヤカンのお湯が沸き始める、

私の涙が零れてヤカンの表面に

吸い込まれるのを私は

慈悲深い目をして見ていた、 

白スーツの男は私の代わりに

火を止めた、



「彼、何も私に言わなかった、
そんな素振りも見せなかったわ
もしかしたら何か力になれたかも
知れないのに、」

シンクの端にあった白黴が目に付く、

私は珈琲粉と牛乳粉を

カップに適当にいれ、

ヤカンに入っているお湯で

かき混ぜた、

白と黒に別れていたカップの中は

薄茶色へと魔法のように

変わっていった、

「貴女に迷惑をかける訳に
はいかなかったのでしょう、
何せ俺達と貴女は組合と探偵社、
敵同士なのだから、」

私は白スーツに珈琲を出す、

彼は少し匂いを嗅いで

眉をひそめたものの、

気遣いの為か一口だけ飲んでくれた、

「そんな事関係無いのに、敵同士とか、
見方同士とか、私達恋人じゃ
無かったんですかね、」

白スーツは何か口を開こうとしたが、

直ぐに閉じた、

「聴いて頂けますか、」

私は白スーツに三日前の話をした、

白スーツは黙って聴いていた、

こんな風に誰かに私達の話をするのは

与謝野以外にいなかった、

「初めて愛してると、
彼に言えたのに、彼、大嫌いだって、
私に云ったんです、私、
彼の後を追いかけることすら
しなかった、私が気付けば
もしかしたら彼は、死なずにっ…」

私はそのまま泣き崩れた、

白スーツは何も云わず、

私の側に居てくれた、

いつの間にか私は寝ていたらしい、

もう外は真っ暗だった、

星が輝いてた、

私は与謝野にクリスマスプレゼントを

上げ忘れていたのを

何故か唐突に思い出した、


ラッピング袋がきれていたため

渡すに渡せなかった、

手紙をしたためる、

彼女にも聴いて欲しかったし、

明日はどうも仕事に行けそうも

無かったから、




与謝野晶子様

拝白、クリスマスも過ぎたというのに陽気な天気が続きますね。
私としてはこのままの天気でこの冬を過ごしたい思ってしまいます。

今回私が筆を取りましたのは
与謝野に贈り物と貸し物をそして、
私の彼について話をしようと思ったからです。

借り物の本、とても面白かったです、
特に最初の方の血管縫合の写真とか、
でも、鏡花ちゃんや、
ナオミちゃんには見せないで
あげて下さいね、

彼が見つかりました、

 ねえ、与謝野、聞いてよ、
私ね漸く彼に「愛してる」って
言えたの、なのにね「大嫌いだ、」
って言われて帰されたの、
私其れまで与謝野に「好きだ」
とか「世界一大切だ」とかって
言ってたの与謝野は何処か
彼に似てたから、
本当迷惑な話だよねでもね、
与謝野の事、今も昔も変わらず
世界一大切な友人だとおもってる、
例え与謝野がそう思って無くとも、
御免ね最後まで、
重苦しい話で与謝野と最後に行った
カラオケとっても楽しかったよ、

生きる希望を無くしたみたいだ、

敬白 丁


丁の最後の文は消されていたが
下書きが丸見えだった。

探偵社で此の手紙を読んだ与謝野は慌てて社を飛び出した。

彼女の掌から、丁の手が零れ落ちるまで…

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